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土山「急ぐとも心してゆけすべりなば~」 [狂歌入東海道]

50tutiyama_1.jpg 第五十作目は「土山・鈴鹿山之図」。狂歌は「急ぐとも心してゆけすべりなばあと戻りせん雨の土山」。「なば==したならば」。「せん=せ(する)+ん(意思)=しよう」。雨の土山は急いでいても心して行きなさい。滑ったならば後戻りしましょう。

 鈴鹿峠(京へ十七里、江戸へ百十一里)を越えても、まだ急坂の上り下りが続く。強飯が名物の「猪鼻の立場」、蟹ガ坂飴が名物の「猪鼻峠」。ここから急坂の蟹ガ坂を下る。

 坂之下から土山への厳しい道を、鈴鹿馬子唄は「坂は照る照る鈴鹿は曇るあいの土山雨が降る」。鈴鹿峠までの上り坂は天気が良くて、峠は曇っていて、下った土山は雨が降っている。鈴鹿山脈を越えると気候が変わる、と歌っている。

50tutiyamaup_1.jpg 「伊勢参宮名所図会」には「間(あい)」と記されているが、道の駅〝あいの土山〟サイトには「あい」の意は七説ありと説明されていた。

 この絵は、厳しい山道・鈴鹿峠の図。峠の向こうに茶屋の屋根が見え、上り下りの旅人らは合羽や蓑を被っている。保永堂版「土山・春之雨」も大名行列の先頭の武士らが雨仕度で歩いている図。

 当時は鈴鹿峠を越えた(京側からは峠の手前)宿で本陣二軒、旅籠四十四軒で栄えていたが、その後の峠を避けた国道などで次第に忘れられた存在へ。それゆえ当時の建物などが今も遺って、街道情緒が味わえるらしい。峠を越えれば、京はもうすぐです。


コメント(1) 

コメント 1

松尾 守也

(翻刻) : 急ぐとも 心してゆけ すべりなば あと戻りせん 雨の土山
(原文) : 急くとも 心してゆけ すへりなハ あと戻りせん 雨の土山  柴の川 茶女
(読み) : 急ぐとも 心して行け 滑りなば あと戻りせん 雨の土山  柴の川 茶女
(注)縁語: 滑り・戻り 

 なお、文中「せん=せ(する)+ん(意思)=しよう」とありますが、この「ん=む」は(意思)ではなく(推量)の助動詞では?意味は「あと戻りしましょう」ではなく、「あと戻りするだろう」ではないでしょうか?
 広辞苑は「む」について、「①予想の意をあらわす。・・・だろう。②時に関係なく一般的な推量もしくは空想的想像を表現する。・・・だろう。③将来の、または一般的な事実を仮定して想像する意をあらわす。もし・・・であるなら。たとえば・・・であろう。④(連体形だけの用法)想像的に柔らげていう。⑤言語主体の動作について決意をあらわす。⑥相手の動作に働きかける時には、勧誘・誂えの意をあらわす。⑦適当・当然の意をあらわす。」と定義しています。
 そこで、yama様の「ん(意思)」説に従えば、「滑って。あと戻りしてやろう」という広辞苑の⑤の定義になるのでしょうが、
この狂歌は「心して行け」と旅人を送り出す側の言葉であり、送り出す側は「滑ると、後戻りするよ」と旅人に注意を促している情景でしょう。
 万葉集に「熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな」(1巻 0008 額田王)という歌がありますが、この「む」は⑤の用法であり、船に乗り込む人が主体であって、見送りする人の言葉ではないようです。


by 松尾 守也 (2017-02-05 14:45) 

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