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川本三郎「言葉のなかに風景が立ち上がる」 [読書・言葉備忘録]

kawakotoba_1.jpg 地震、津波、原発・放射能、水道・ガス・電気・電話の不通、ガソリン不足、工場休業、計画停電、買占め…大変な事態になってしまった。新宿在住で水道・ガス・電気変りなく、隠居ゆえ混雑する電車に乗ることもなく、ガソリンを並んで購うこともなく、買占めもせず、節電のために暖房を止めてダウンを着込んで、ただ読書のみ。

 同書は人間関係より風景を描いた、またそれを主眼にした22小説・22作家を紹介。ブラボー! あたしも小説は勿論のこと、人間関係で泣いたりわめいたりのテレビドラマや映画は子供時分から蛇蝎のごとく嫌ってきた。著者は22の小説から「なぜ風景に心惹かれるか」「風景に惹かれるとはどういうことか」を探って、22作家の風景感(論)を探る。

 最初は野呂邦暢「鳥たちの河口」。主人公は組合争議がらみで会社・組合から疎外されて退職。心を癒したのは町より河口と海が接する風景(諫早湾)。彼は干潟に迷い込み傷付いたカスピアン・ターンという珍鳥を保護。鳥の回復をもって妻と空に返してやる。遥か原初から続く干潟の自然と鳥との心豊かな交流を描いて、作者は自分だけの風景をここに閉じ込めたと記す。長くなるから各章省略。最後の2章を…

 「地の果て」をゆく日野啓三では、辺境を旅する作者はデジャ・ヴュの景色に未来のファンタジーを見ていると指摘。風景が内包する現在と過去と未来が彼を辺境に惹きつけていると記す。最終章は清岡卓行「太陽に酔う」。彼が度々描く“突然の太陽との出逢いによるある種の感慨”を、彼の詩「それが美であると意識するまえのかすかな驚きが好きだ」を引用して、それが「詩作への力が湧く瞬間」と指摘している。各章もっと深く突っ込むべきだろうが、風景論への誘うエッセイといった感じだろう。(2006年、新潮社刊)。

 なおカスピアン・ターンはオニアジサシのこと。セグロカモメほどの大きなアジサシで、嘴は赤。日本には稀な旅鳥、または冬鳥。あたしは未だ撮っていない。


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