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ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』メモ➀スハルト将軍の大虐殺 [政経お勉強]

41sShaCb+ZL._SX315_BO1,204,203,200_.jpg シカゴ学派は➀利益障害になる政府の規則・規制の全撤廃。②政府所有資産で企業が収益可能なものは全民間へ売却。③公的予算の削減。つまりグローバリズムの推進、医療・郵政・教育・年金などの民営化。貪欲奔放な資本主義のあるがままを主導した。

 ちなみに日本の主な民営化は1985年に日本電信電話公社をNTTグループへ、1987年に国鉄がJRグループへ、2007年に郵政三事業が民営化された。小泉自公政権の経済財政政務担当大臣で、安倍晋三のお友達=竹中平蔵は、シカゴ学派のミルトン・フリードマンの信奉者らしく、非正規雇用を拡大して、その会社で大儲け。日本の困窮層、格差拡大を招いた張本人との指摘が多い。

 さて、アイゼンハワー大統領時代のニクソン副大統領は、共に病的反共主義者で多国籍企業好きのダレス国務長官と彼の実弟ダレスCIA長官らはシカゴ学をバックアップし、イランのモサッデク首相が英国資本の石油会社を国有化して親ソ連政策を行ったことで、影で動いて軍事クーデターを遂行。同首相を失脚させ、親米的残虐的国王の権力を復活させた。同様にグアテマラ政権も崩壊させた。

 チリの学生を政府の金でシカゴ大学で学ばせて洗脳。このプログラムはアルゼンチン、ブラジル、メキシコにも拡大した(財団はフォード財団)。最初のチリ留学生が帰国する頃には、フリードマン本人よりフリードマン主義に徹して、自国の経済学部教授になったりでサンティゴにチリ版シカゴ学派を形成。やがて南米全域に「シカゴボーイズ」がこの「新自由主義」を拡大していった。

a0390578_06175719.jpg だが、この計画は思い通りに行かず。1962年にブラジルは左寄りに舵を切り、1970年にはチリでも人民連合のアジェンデ政権が誕生で、米国大手鉱山会社の支配する銅山をはじめ主要分野で国有化を実施。

 1969年にニクソンが大統領になると、彼は「チリ経済に悲鳴を上げさせろ」と命じ、米国実業界はチリ経済に宣戦布告。ブラジルでも米国支援のブランコ将軍の軍事評議会を成立させ、学生中心の反軍事政権へのデモが盛り上がると。残虐手段をもって制圧した。こうして欧州並みに中間層が核だし、子らも大学へ通えた南米各国が、資本主義の残虐さで崩壊の道へ向かって行った。

 一方、インドネシア・スカルノ政権は党員300万人の共産党と密接な連携を持ったことで、米英政府はスカルノ政権打倒に動いた。デヴィ夫人はスカルノ大統領の第三夫人。大統領が反共軍人・スハルト将軍に軟禁され、夫人らは国外逃亡。

 CIAの支援を得たスハルトは、左派指導者「銃殺リスト」をもって殺しまくった。1ヵ月間に共産主義者50万人、華僑40万人。最大推定300万人とも言われる大虐殺をもって共産主義者排除を遂行。(この残虐さは慶應義塾名誉教授・倉沢愛子著『インドネシア大虐殺』(2020年刊、中公新書)に詳しく、またその残虐実態は2014年のドキュメンタリー映画『アウト オブ キリング』公開で世界中に衝撃を与えた。

 かくしてインドネシアは自然資源(銅、ニッケル、硬材、ゴム、石油など)をグローバル企業の掌中に落ちた。なお著書『ショック・ドクトリン』の前章は、薬物の感覚遮断の拷問手法の詳細レポートで、貪欲な資本主義が軍部と手を結ぶと、いかに残虐はことになるかをレポート。

 また終章ではフリードマンのショック療法を実行した各界の主要人物らの多くが、2006年までに罪に問われ、刑務所に入るか、個人資産を凍結されていると報告。新自由主義は表面上は一応の体裁と合法性をつくろってきたが、今や崖の皮が(多くは醜悪な犯罪行為)明るみになり、大きな富の不平等をはらむシステムが露わになっていると記している。(日本の新自由主義者の罪はどうなる?)

 重ねて記すが、斎藤幸平『人新世の「資本主義」』では、この惨事便乗型資本主義(ショック・ドクトリン)は「気候変動ショック・ドクトリン」にも、「コロナショック・ドクトリン」にもなりうると警告していた。全編読むには至っていないが、ナオミ・ドクトリンの同著は、そんな貪欲な資本主義の怖さが余すことなく紹介されている。小生、図書館本で期限は2週間。返してはまた借りて全編読了しなければ、と思っています。

 写真下はナオミ・ドクトリンの著作集。



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ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』メモ➀惨事便乗型資本主義 [政経お勉強]

Naomi_Klein_at_Berkeley,_California,_in_2014_(cropped).jpg 同著は上下巻の大作。米国の自由市場主義(市場原理主義=放任資本主義)が、どのように世界を支配してきたかの裏側を暴いている。大惨事につけ込んだ「惨事便乗型資本主義」浸透の悪事で、先に読んだ斎藤幸平『人新世の「資本論」』でも、「惨事便乗型主義」を取り上げて、それは「公共領域の縮小・企業活動の自由化・社会支出削減」の三位一体政策と記し、「気候変動ショック・ドクトリン」もあるし、「コロナショック・ドクトリン」もあると警告していた。

 膨大な同書から、核のひとつだろう第2章「もう一人のショック博士~ミルトン・フリードマンの自由放任実験室の探求~」だけを、ここにメモしておく。

 1950年代のシカゴ大学経済学部に神格化された「シカゴ学派」あり。率いるのは野心的カリスマ的なミルトン・フリードマン。同学派主旨は「市場を自由に任せておけば、おのずと均衡が生まれる。政府の規制、貿易障壁、既得権などあらゆる介入を取り払い、純粋な資本主義の状態に戻して、自由主義を花開かせよう」というもの。

 それが今日の貪欲な資本主義を招いて、新自由主義のグローバリズムへ発展し貧富格差を生み、特に途上国の資源開発で環境破壊を招いている。

 歴史を遡ると、1929年の株価暴落~世界大恐慌で、それは既に「自由放任の終焉・市場原理に任せた結果」と指摘された。ドイツでは世界恐慌をテコにナチスが台頭した。欧米ではファシズムや共産主義に流れるのを警戒して、国民の基本的尊厳を保証すべく、まともな「資本主義」路線に修正された。

naomiklein.jpg 失業を防ぐためにケインズのニューデール政策(公共事業計画)が実施され、米国は社会保障制度を、カナダは公的医療制度を、英国は社会福祉を、仏やドイツは労働者保護制度などを生んだ。

 一方、発展途上国(チリ、アルゼンチン、ウルグアイ、ブラジルなどの南米地域)でも、自然資源の暴落からくる貧困を回避すべく、自然資源(石油や鉱物)などの不安定な輸出に依存しないために、これらを国有化で管理し、収益を政府主導の開発プロジェクトに注入。国内指向型の工業化政策を選択した。

 その結果、これら諸国は1950年代に目覚ましい成功を治めた。公的資金で高速道路や製鉄所などの基幹プロジェクトに力を入れて車や家電などを生産。先進国には高い関税を課して輸入品をシャットアウトした。欧州や北米に近い発展を遂げ、新しい工場で働く労働者たちは強力な組合結成をもって、北米と同じく中産階級を拡大した。子供たちは新設公立大学へ進学し、格差も是正、ウルグアイでは識字率95%。医療も無料化された。

 だがこの成功を苦々しく思っていたのが米国大企業とシカゴ派だった。企業側はシカゴ派を援助し、組合や社会主義化を懸念するニクソン大統領、ダレス国務長官、実弟のダレスCIA長官らが加わって「新保守主義+シカゴ学派」をもって、発達した南米諸国へも反撃を開始した。読むも耐えがたい残虐・破壊工作が展開されて行く~。(続く)

 写真上は著者のナオミ・クライン。(ウィキペディアより) File:Naomi Klein at Berkeley, California, in 2014 (cropped).jpg

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