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蚊を詠ひ風流ならぬ都かな [永井荷風関連]

noiebai1,jpg_1.jpg 昨日の新聞が、代々木公園のデング熱ウィルス媒体のヒトスジシマカはまだ生息中と報じていた。柵で仕切られただけで、かつ湿地も多い明治神宮にもいるだろうし、新宿中央公園にもいたから新宿御苑(19日夕の報道で検出確認)にもいそうだ。

 荷風さんの句には「蚊」が多い。ざっと拾ってみた。「蚊ばしらのくづるゝかたや路地の口」。玉ノ井の情景だろう。「蚊ばしら」でもう一句。「蚊ばしらを見てゐる中に月夜哉」。これまた玉ノ井をさまよっていた時の句か、霊岸島への月夜散歩でか。「路地の蚊に慣れて裸の涼かな」。馴染の女の許に通った宵に詠んだやら。

 『墨東奇談』に出て来るのは「残る蚊をかぞへる壁や雨のしみ」。大岡信が解説している。秋の蚊は弱々しく壁にはりつき、わびしい長屋の壁(亡友・唖々が親の許さぬ恋人と隠れ住んでいた長屋の壁)には、雨のシミがにじんで、古色蒼然となっている。荷風が好んで描いた市井隠逸の情景だと。

 次に自宅で詠んだと思われる「屑籠の中からも出て鳴く蚊かな」「蚊帳の穴むすびむすんで九月哉」「蚊帳つりて一人一ぷく煙草かな」。独り暮らしの寂しさで、蚊はお友達である。

 他に「昼の蚊や石灯籠の笠の下」「世を忍ぶ身にも是非なき蚊遣哉」「世をしのぶ乳母が在所の蚊遣かな」。今は「蚊」を詠めば、情緒どころかデング熱の恐怖が迫る。亜熱帯になった日本に、早く秋が訪れますように。写真は蚊が撮れなかったので蠅にした。荷風さんの〝冬の蠅〟は有名だ。


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