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21:隅田川涼賦‐牛込から舟に乗って [鶉衣・方丈記他]

sumidagawa1a_1.jpg隅田川涼賦 水無月(新暦では七月中旬から)のあつさの、けふことにさめがたければ、いざ隅田の川風に扇やすめばやと、牛込といへる所より舟出して「まづ涼しおし出す舟に芦の音」などたはぶれて竿をめぐらすに、舟はもとより一葉のことごとしからず、破子(わりこ)も場どらぬ趣向ながら、けふの乗合に手なみしれるくせものもあればと、樽一ツはいかめしくつきすえたり。

 也有は十九歳より延べ九年余が江戸詰めで、その時の隅田川遊び。「牛込といへる」とは、飯田壕から舟が出たのだろう。神田川沿いに隅田川に出る。尾張藩上屋敷は現・市ヶ谷防衛省、中屋敷は現・上智大辺り、下屋敷は現・戸山公園で、どこからでも牛込は便がいい。

 ここまで読んだ数日後のこと。「おまいさん、日本橋の〝奈良県アンテナショップ〟で上辻豆腐店の〝大和揚げ〟を買ってきてくれよ」ってんで自転車を駆った。するってぇと神楽坂下と飯田橋駅の間の「牛込揚場跡」碑に気付いた。~江戸時代には海からここまで船が上がってきた。全国各地から運ばれて来た米、味噌、醤油、酒、材木などがこの岸で荷揚げされたので、この辺は〝揚場〟と呼ばれた。第二次大戦後もしばらくつかわれていて~の説明文。その隣に広重『絵本江戸土産』第八編の「牛込揚場」が紹介されていた。なお広重は団扇絵「どんどんの図(牛込揚場丁)」も描いている。これは牛込御門の堰で滝のように〝どんどん〟と水音が聞こえる下で、若旦那と芸者衆が舟に乗り込む図。

usigomeageba_1.jpg 「扇」は古語読み「あふぎ」。「扇休め」いい言葉ですねぇ。つづく「ばやと」は「ば・や=自分の動作の実現を希望する。意志を表す。~したいものだ」と。「一葉のことごとしからず=一葉の事事然ず」で「一葉のそれぞれがそうではない」の意か。「破子=破籠(わりご)=内部に仕切りを設けた運搬用弁当箱」。「場どらぬ趣向=かさばらないような工夫」。「つきすえたり=築き据えたり」。

 也有が牛込から舟に乗った文を読んだ後で、牛込揚場丁(町)跡の碑を見て、日本橋まで走って奈良県の〝油揚げ〟を購った〝揚げ〟尽くしの余談。夏目漱石の小説にも、牛込から舟に乗って浅草に芝居を観に行くシーンがあるとか。それは次回に記す。


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