SSブログ

清張(8)『芥川龍之介の死』 [読書・言葉備忘録]

ryunosuke3_3_1.jpg 清張「昭和史発掘」より『芥川龍之介の死』を読む。ネットには彼の似顔絵が幾つもアップされ、同作感想文も多い。小生、マイナー好みゆえ、教科書に載るような小説家は斜めにみる癖あり。ここは思い切り下世話に記してみる。

 同作は途中で何度も眠くなり、欠伸に堪えて読み進めば、なんと、荷風さんが出てきて眼が覚めた。清張さん、谷崎潤一郎と芥川龍之介の違いを、デビューの形から比較していた。谷崎(26歳)は憧れて近寄ることも出来ぬ荷風さんから「三田文学」で『刺青』を激賞され、同誌を持つ手が感激でブルブル震えた。

 比して芥川(24歳)は漱石山脈のボス・夏目漱石から『鼻』が賞賛されてのデビュー。漱石は優等門下生を誉めたに過ぎぬ。このデビューの形からも両者の〝逞しさ〟が違うと記していた。

 小生、何年も前に谷崎潤一郎を読み、こう記したことがある。~変態・潤ちゃんは帝大入学も〝悪所〟通いにのめり込む。繰り返し性病に罹って、友人に注意されると「稼ぐに追いつく淋病なし」とうそぶいた。荷風激賞の『刺青』はフェチ趣味で、初大手雑誌「中央公論」発表の『秘密』は〝女装趣味〟。『悪魔』で荷風さんは思わず「谷崎はきわめつけの変態だ」。潤ちゃん、大家になっても女の足にひれ臥し舐める癖を隠したりせず。

 清張も「谷崎は自殺など金輪際すタマじゃない」と記していた。一方、龍之介ちゃんは『今昔物語』などを素材に、精巧で小細工の効いた凝った文体の短編が多く、良く云えば芸術至上主義。輝いていても〝作り物〟。何かがあれば微塵に砕ける脆弱さ。実態なしの書物人生。自殺原因の〝ぼんやりした不安〟もお似合い。

 清張さん、さらにこう記すから少々驚いた。龍之介ちゃんは「悪所好きでお盛んだった」と。結婚3年目で好きもの「H女」に嵌った。彼女は他の作家仲間とも交わっている。しかも夫持ちゆえ、訴えられれば姦通罪。だが龍之介ちゃんは淫欲から離れられないこと7年。芸術至上主義的小説を書きながら、秘め事や己の闇は決して外に漏らさない。結果、ひとり煩悶する他はない。

 宇野浩二は芥川に連れられて各所〝隠れ家〟へ行った。先方の挨拶から龍之介ちゃんが馴染なのがわかって〝その道の通〟と感じたそうな。そんな乱れ様は当時の文士(放蕩文士)らの生態だろう。荷風さんだって同じだが。それが作品にも人生にもなっている。龍之介ちゃんは表向きは礼儀正しい知性派で若き文士らの尊敬の的。下世話な姿は決して晒せない。

 清張はこうも記していた。彼は大正10年に120日もの中国旅行に出かけたが、これを機に「H女」との関係を絶つことができた。同時に「中国では相当女を買って遊んだと思われる」。文庫で118頁。真面目に龍之介ちゃんの死と取り組みたい方は、こんな下世話は読後感を忘れ、ぜひ同書をお読み下さいませ。

  カット絵は改めて追加アップ。ここ最近の絵は不透明(ガッシュ)系だったので、画風を変えて透明水彩(ウォーターカラーペインティング=〝つゆだく〟技法)らしく描いてみた。


コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。