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「放浪記」からH・ミラーを思い出す [読書・言葉備忘録]

fumiko1_1.jpg 読みたくないと言いつつ読んでしまった。川本三郎は「放浪記」を女性が最初に書いた都市小説と言った。林芙美子は街を実によく歩いた。そんな貧乏生活にあって常に明るいバイタリティーと庶民視線があったと指摘していた。

 あたしは同書を読みつつ、若い時分に熱中した翻訳本ヘンリー・ミラーをちょっと思い出した。「南回帰線」「北回帰線」などはパリでの極貧暮しと書けぬ苦悩の叫びで終始。「やりてぇ、書けねぇ」と猥雑な苦悶から、ビジョンへと飛翔するイメージ洪水と饒舌があり、それを読んでいるとシビれるような至福感があったと記憶する(全集を持っていたが今は一冊もない)。林芙美子も絶えず「食いたい、金が欲しい、書きたい」に加え同じく「やりたい」とまでは言わぬが「男・男・男…」と叫んでいた。人間なんて裸になればそんなもんよ。書けなかったら「わたしはン歳。名はヘンリー・ミラー。」こう書き出せと何度も言っていたが、林芙美子もそう書いていて、やはり書けぬことに苦悶していた。「放浪記」には何篇もの詩が挿入されているが、ミラーはそんな詩的散文で全編を貫き読む者を陶酔させたが、林芙美子は苦しくなるとオノマトペ(擬音・擬声など)で投げ出しているような所もあるなと思った。

 そうだ、「放浪記」は長谷川時雨主宰「女人藝術」連載が最初だが、それは市ヶ谷・左内坂を登った辺りで始まったんだ。あたしはちょうどその辺り「左内坂マンション」てぇとこに仕事場を持っていた時期があり、女給をしていた新宿二丁目辺りで呑み歩いていた時期があり、現在の在住地辺りにも行商で歩いていたとか…。(新潮社文庫 平成20年で49刷)。もうひとつ…。「放浪記」は20代前半の話だが、相当なお婆さんが演じているそうな。引き際を忘れちゃったんだなって感がする。


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