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珍鳥ラッシュ!野呂邦暢「鳥たちの河口」 [野鳥関連本]

 どうやら鳥撮りの小説らしく、図書館で借りた。以下、物語概要… “彼”は退職後に干潟通いで鳥撮り百日目。“彼”は千ミリの望遠レンズを三脚にセットした。(おや、小説発表が昭和48年。その頃の千ミリとは? あった。レフレックス・ニッコール1000か…。) 今度は300ミリをセットで捉えたのはカラフトアオアシシギ。“彼”のノートにはこれまでに撮った珍鳥がリストアップされていた。ハシブトアジサシ、コウノトリ、ハイイロヒレアシシギ、ハイイロガン、ツクシマガン、ツメナガセキレイ、イワミセキレイ、オジロトウネン、オオノゴマ、そしてオニアジサシことカスピアン・ターン。(ツクシマガンはツクシガモのことかな)。

 “彼”は干潟80日目に散弾で撃たれ重油まみれのカスピアン・ターンを保護。病弱な妻との不機嫌な会話。鳥の餌のシバエビをくれた漁師との会話で、この干潟が埋め立てられることが説明される。さらに回想は遡り、“彼”の退職経緯が書かれる。放送局にカメラマンとして勤務の“彼”は、組合交渉中に局長とぶつかり、それが暴力行為告訴となり休暇・退職に至る。

 そして珍鳥ラッシュだ。鳥たちの体内に蓄積された毒素が脳細胞をむしばんで精密な方向感覚を狂わせたのだろうか…。道からそれた自身の人生。干潟に通い出した“彼”に、印刷会社・社長が写真集出版を約束するが、後に同社が不渡りをだす。“彼”はもう新たな鳥をみつけてもシャッターをおさない。明日から新たな生活を求めて都会に出る。

 そのとき、突然にハゲワシが襲ってくる。“彼”とハゲワシの壮絶な闘い。闘い終わったところに妻が癒えたカスピアン・ターンの籠を持ってくる。百日間の観察ノートを焚火にくべたあと、彼らは鳥を放つ。

 いやはや、最後にハゲワシとの闘いがでてくるとは腰が抜けるほど驚いた。このラストシーンもそうだが、局長の転倒する練習を目撃したり、妻との会話や、少年の筏作り、印刷会社の不渡りなど…仕掛けのわざとらしさが目障りな小説だった。芥川賞候補作で、同回は三木卓「鶸」が受賞。共に野鳥がらみとは稀有なこと。なお野呂邦暢は次回、第70回で「草のつるぎ」で芥川賞を受賞。その6年後、42歳で急逝。干潟は長崎県諫早湾らしい。

 川本三郎は「言葉のなかに景色が立ち上がる」の冒頭で同小説を紹介したが、景色より作為満ちた人がらみ物語が立ち上がってきて、あたしの好きな小説、作家ではなかったようだ。


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