SSブログ

小島キヨ(4)子らに看取られて [読書・言葉備忘録]

dada1_1.jpg oriharatuji_1.jpg昭和3年1月、辻潤は長男まことを連れ、読売新聞パリ特置員として渡欧。大阪にいた谷崎潤一郎が自宅で送別会を開いてくれた。一人残ったキヨは「書かなくては」と思うもままならず。酒に手が伸び、飲めば傍に男がいて欲しい。

 昭和4年1月、辻親子がシベリア鉄道で帰国。辻は林芙美子の処女詩集「蒼馬を見たり」序文を書く。辻に生活力なく別居は続く。昭和7年、久し振りに家に戻れば辻は「天狗になって」二階から飛んだ。辻との別れを決意。玉生(たまにう)謙太郎と暮らし、長女を産むが入院費も帰る家もない極貧。それでも必死に「生活」する。

 辻潤は病院と尺八の門付け繰り返しで、昭和19年に餓死。辻潤のダダイズムが遺したのは「混沌と無」だけか。キヨは謙太郎との間に一女二男をもうけ、健気な女房として生き抜いた。昭和48年、日動画廊の中村彝遺作展に行き、自身がモデルの「椅子によれる女」の前に立ち、29歳になった次男に写真を撮ってもらった。作家を夢見て上京し、同画のモデルに。以来53年。同画再会で区切りをつけた直後に体調を崩した。昭和50年に入院。3人の子供の家族らの献身的な介護6年を経て、昭和56年に永眠。78歳だった。

 小島キヨにとって辻潤は何だったのか。倉橋健一は「林芙美子、平林たい子になれなかったが、大正から昭和初期に個に目醒めた時代をひたむきに生きた」と自著「辻潤への愛」で締めくくっている。そう簡単に参らぬのが「辻まことファン」。折原脩三著「辻まこと・父親辻潤」では、辻潤著作が多い玉川信明と自身とのこんな対談を載せている。

 玉川:辻潤は「たたき台」のひとですね。そこを乗り越えて何がでてくるかが問題。折原:辻まことは、そこにスポーツマンシップというものを思想に適用したように、ひじょうに爽やかに生きた。辻潤には「美」の最大要素である「比率」が欠落していた。

 折原は、同著の最期に吉田一穂の新聞インタビュー記事を長々引用で締めくくっている。仏像は「半眼微笑」で、半眼は厳しい認識、微笑は愛。相容れぬ二つが一つになっている。それは調和ではなく比率が問題で云々~。折原は何が言いたかった? 辻まことの「スポーツマンシップ」と「比率」を解明するとしながら、辻親子に自身を重ねることにのたうちまわって、爽やかではなく騒々しく未消化のまま終わった。

 辻まことは父の「混沌・無」に加え、満州国末期の死体処理を見たり、略奪の兵になる経験を経て、再び人生を歩き出した。音楽(名ギタリスト)を、山(山スキーと猟の達人)を、酒を、仲間を、家族を愛し、絵(画家ではなかったが多くの絵)と文章(アフォリズム系の名文)を残した。それでいて何も言わず爽やかな透明感ある佇まいで生き抜いた。比して小島キヨは、辻潤から別れた後は、貧しくも三人の子の母として泥臭くしたたかに「生活」して人生を全うした。

 辻潤の長男・辻まこと、後妻の小島キヨを読み終えれば、次に大杉栄・野枝の子らは? さらに彼らを虐殺して満州の闇を仕切ったその後の甘粕憲兵大尉も気になる。読みたい本は途切れない。

 ※楠井さま、コメントありがとうございます。コメント欄への記入がうまくできず、メールも叶わなかったので、ここに記します。小島キヨ様の記事は、5年前に記したものです。同年4月頃から佐藤春夫邸、大逆事件、大石誠之助、大杉栄、西村伊作、本郷菊富士ホテル、瀬戸内寂聴の〝大逆事件〟関係小説、荒畑寒村、大島・三原山のもく星号、辻まことへ。そして中村彛さんがいて「小島キヨさん」に辿り着きました。次から次へと物語が繋がって、小島キヨさんからも甘粕大尉にもつながって、まさに壮大なドラマが展開です。

 小生は評論家でも作家でもなく、このブログ記事はその壮大展開に惹き込まれて次から次へと各関連書を読み継いだ〝私的抄録〟ですゆえ、間違いの記述をご指摘下されば、いくらでもお詫び・訂正致します。同記事の前後かの記事に参考書名をあげています。小島キヨ様に関しては主に倉橋健一著『辻潤への愛~小島キヨの生涯』の抄録だったと記憶しています。

 伊藤野枝が夫・辻潤と長男(辻まこと)と次男を置いて、大杉栄の許に走り、妻に去られた辻潤の許に小島キヨが入ったと読み知りました。辻潤は相当に乱れた人生を歩まれたようで、律儀なことは大の苦手だったでしょうゆえ、役場へ行って戸籍手続きなどはしなかったように推測しています。むしろ小島キヨさんの方がしっかり者だったように感じていますが、果たして戸籍はどうなっていたのでしょうか、小生にはわかりません。〝後妻〟の表現が間違いでしたら訂正いたします。


コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。