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甘粕正彦(1)角田房子版と佐野眞一版 [読書・言葉備忘録]

amakasu_1.jpg 角田房子「甘粕大尉」(ちくま文庫)読了。瀬戸内寂聴「美は乱調にあり」「諧調は偽りなり」に比し、ノンフィクションならではの緻密な調査、取材に敬服。昭和49年「中央公論」連載で著者60歳作。「私が甘粕を書いた目的は、まっ正直な日本人の典型と思われる甘粕正彦の軌跡を追いたかった」。書き出しは当然「大杉一家虐殺事件」から。

 同書の後に平成20年刊、佐野眞一「甘粕正彦 乱心の曠野」(新潮文庫)読了。角田版より文庫で約220頁多い。「あとがき」に、自身のスタッフ2名と「週刊新潮」編集部スタッフとのチーム取材で、「地を這うような取材と資料収集」と記していた。「週刊新潮」連載(150枚)を元に、約千枚の描き下ろし。角田版に比し資料・取材は幾倍か。甘粕正彦に関わる人ならその兄弟、同級生、友人、子供、孫、甥までに取材や資料を求める執拗さ。地を這うアメーバ―的なしつっこさが取材信条か。

 とは言え大杉栄事件、その軍法会議、獄中とフランス生活、満州での暗躍、満映理事長時代など「基本資料は」概ね共通。佐野眞一は角田版にない「新たな何を」探り出そうとしたのだろう。

 佐野は書き出し部分で、こう記している。・・・甘粕について書かれた評伝では、角田房子「甘粕大尉」が有名である。同書ではあまり筆が及ばなかった後半生の満映時代については、山口猛の「幻のキネマ満映」が詳しい。いずれも労作の名に恥じない。しかし、前者が軍人としての甘粕の記述に偏り、後者の記述が満映のフィルモグラフィーに偏ったきらいがあるのは否めない。両著に最も欠けているのは、満州における甘粕の豊富な資金源と、地下茎のようにからみあった複雑な人脈である。甘粕はいつしか、満州の昼は関東軍が支配し、満州の夜は甘粕が支配すると囁かれるまでになった。「満州の夜の帝王」という異名をほしいままにしたその力の源泉こそ、甘粕最大の謎であり、私が甘粕に惹かれた最大の理由だった。

 今まで一度も書かれなかった大杉事件前の甘粕資料(平成2年に解体業者から国立図書館・憲政資料室所蔵となった茶箱一杯分)を発見したこと、さらに甘粕の長男・忠男氏の全面協力を得たことも本書を書く大きな動機と追記している。(続く)


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