SSブログ

ウグイスの谺のなかぞ島暮し [週末大島暮し]

anaohsima_1.jpg 大島ロッジの台所の窓外は藪だ。そこで「ホーホケキョッ」と鳴いた。反対側のベランダに出れば南に三峰山の緑、西に防風林と海。彼方此方で「ケキョケキョケキョ」と谷渡り。姿は見えねど、島のロッジはウグイスの鳴き声に包まれた。至福なり。

 実は防風林が次々に失われ、家の中から海が見えるようになった。ってことは、冬は強い西風をまともに受けて、ボロロッジが吹き飛ばされる怖さとなった。併せてウグイスの鳴き声も絶えた。それがなんということでしょうか、再びウグイスの鳴き声に包まれたじゃありませんか。

 藪、防風林、山の緑があってウグイスは鳴く。ヘビやタイワンリスに卵も食われよう。それら危機を越えて、健気にまたウグイスの鳴き声がこだましていた。

 島での読書用に、野口富士男『わが荷風』と『私のなかの東京』を持参した。こんな記述があった。・・・地下鉄早稲田駅をでると、すぐ左手に穴八幡の石段が見える。(中略)。早大の文学部から坂をのぼって行くと左側に女子学習院。私の家はいまなお樹木の多い女子学習院の反対側の路地裏にあるため四、五年前までウグイスが来て笹鳴きをした。

 げげっ、近所じゃないか。ウグイスが鳴いていたとっ。 書かれたのは昭和53年1月。その4、5年前とは今から40年ほど前のこと。あたしらは彼の家の周囲を転住で、早稲田通りに面したビルにも住んだ。裏路地に入れば女子学習院に抜ける。著者がご近所とは知らなかった。

 ロッジベランダでウグイスの鳴き声を聴きつつ「おめぇ、若い時分にウグイスの鳴き声を聴いたことがあるかぇ」と、かかぁと若き日の記憶を辿っていたら、突然に轟音に中断された。ベランダ東側の藪の向こう、大島空港へ着陸体制に入ったプロペラ機「ボルバルディアDHC8-Q300」。これまたひと頃のジェット機に比し、ずいぶんと音が柔らかくなった。ウグイスが戻ってきたのも、それが要因のひとつだろうか。

 プロペラ機の音が消え、再びウグイスの鳴き声に包まれた。そういえば、新宿のマンションからも見える女子学習院下の戸山公園で、今年はヒレンジャクの群れ、キクイタダキを撮った方がいた。あたしもこの正月にウソの群れを撮った。ひょっとすると、新宿でも再びウグイスの鳴き声を聴くことができるようになるかもしれない。そうなれば世知辛い世が、ちっとは長閑になるろうと思った。口笛で甲高く「ケキョケキョ」と吹けば、「ホーホケキョ」と返ってきた。


コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。