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犬の眼にわれ堕ち行くや好々爺 [暮らしの手帖]

oto1_1.jpg 共稼ぎ若夫婦の許で暮らしていたコッカースパニエル。若夫婦に待望の子が産まれ、彼らの愛犬をしばし預かることになった。今まで日々淋しく留守番を強いられていた犬が、始終家にいる隠居のあたしから片時も離れぬ。

 

 週末のみではなく毎朝夕の散歩が日課になった。犬の野生とばかりに公園の山坂を小走りする。雪降れば処女雪を疾走す。あたしは椅子に胡坐でパソコンに向かうが、その胡坐にも座り込む。満足にパソコン遊びもできず、くずし字の筆も持てぬ。寝るも同じ布団の上だ。

かくしてあたしは我を失い自分の生活を捨て、犬の友と化した。孫の相手より先に、犬相手の好々爺に成り下がってしまった。


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