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(9)雅号、画号、狂歌名、戯作名 [江戸生艶気蒲焼]

uwaki5_1.jpg かない(家内)の下女どものぞきミて「おらがわかだんな(若旦那)ニほれるとハ、せんけかこりうかゑんしう(千家か古流か遠州)かしらぬがとんだちやしん(茶人)だ」とさゝやく。

 ここでの「茶人」は物好きな変わり者の意だが、あたしの母はお茶が江戸千家、お花が古流のおっ師匠さんだった。戸籍名と俗称名と茶道名と華道名を持ち、名と顔を使い分けてい、子供心に羨ましかった。

 山東京伝の本名は岩瀬で、幼名は甚太郎。十三歳で伝蔵、改め醒(さとる)。戒名は弁誉智海京伝信士。画号は北尾重政に学んで北尾政演(まさのぶ)。狂歌名は身軽織輔。京橋の伝蔵で「京伝」だが、他に者張堂少通通辺人、臍下辺人、王子風車、醒醒斎、兎角亭亀毛、巴山人など。まぁ、江戸前の二枚目だが絵では京伝鼻のように、名も卑下た名が多い。比して昨今の作家は美男次女風名が多い。虚名を使うなら素顔は晒さぬがいいのに。

 おゑん「ミづからと申ハ、そも、よ(寄)るべさだ(定)めぬころひつま(転び妻)、この志んミち(新道)ニすミなれて、ひとのこゝろをうわきにする白ひやうし(拍子)てござんす。かやば(茅場)丁の夕やくし(薬師)で、こちのゑん二郎さんをうゑき(植木)のかげからミそめました。女ぼう(房)ニすることがならずハ、おまんまなとた(炊)いてもおりたいのさ。それもならぬとおつしやれバ、志(死)ぬかくご(覚悟)でござります」などゝちうもんどをり(注文通り)のせりふをならべたてる。

 艶二郎「ハテ、いろおとこといふものハ、どんなことでなんぎ(難儀)を志よふか志れぬものだぞ。もふ十両やらふから、もちつと大きなこへで、となりあたりへきこへるやうニたのむたのむ」

ばんとう(番頭)候兵衛「わかだんなのおかほ(顔)でハ、よもやこふいふ事ハあるまいとおもつたに、コレお女中、かどちがいでハないかの」

 艶二郎がおや弥ニ衛門、たのんだことハ志らず、きのどくニおもひ、いろいろといけんしてかへしける。

 「そも=そもそも」。「よるべ=寄る辺」で頼りとする所・人。古語辞典には「夫また妻をさす」ともあり。夫のいない「ころひつま=転び妻=お金で寝る女」。「白拍子=近世では遊女」。「茅場丁の夕薬師~」は薬師堂の夕方縁日。江戸時代には植木の露店が出て、男女の出会いの場になるほどの大賑わいだったとか。江戸遥かなり。


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