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4:半可通の谷粋衣裳 [甲駅新話]

koueki3_1.jpg さて、馬をひいた馬子らが去り、本編主人公が登場。まず二人の衣裳が入念紹介される。原本は小文字だが、ここは江戸文化に親しむ遊びゆえ、しっかりと筆写・解釈する。まずは谷粋(ヤスイ)の衣裳。

 藍さびちゞミのかたびら。紅麻に白ぬめゑりのじゆばん。帯ハ黒びろうどに、あさぎ小伯を合せたちうや帯。呂の山まひ染に桐の三ッ紋付た羽折。ひもハ駿河打のほそ。色ハむらさきなれども、さめて藤色かとうたがふ。茶つかの少しよごれた脇さし一本おとし指にし、かまぼこ形のすげ笠に白キ麻のひもを付てかむり、笠の裏に小サキ風車二本さしたり。

 「藍錆=やや赤みの藍色」。つまり青紫の縮みの「かたびら=単衣、夏物」。襦袢は、紅色に染められた麻地で白むめゑり(白絖襟=白絹のなめらかでつやのある襟)。帯は黒びろうどに浅黄色の昼夜帯。つまり黒と浅黄のリバーシブル帯。羽織は呂の山繭染に、桐の三ッ紋付(背中と両袖後ろ)。紐は紫だが褪めて藤色かと疑われる駿河打ちの細紐。脇差は茶色のつか(柄=握り)の少し汚れたものを一本落し差(柄が胸に近い崩れた差し方=臨戦態勢でない差し方。水平の差すのは、かんぬき差し)。すげ笠はかもぼこ形で、白の麻紐をつけてかぶり、笠裏に小さい風車(当時盛んだった堀之内=妙法寺詣りのお土産)を二本さしている。

 大田南畝自身は最下級武士の御徒歩組だが、さて、この人物は何所のどんな身分の男だろうか。廓遊びなら落語でも長屋の熊さん八っつあんも登場だが、彼は遊び人風の衣裳に凝った中年男で、脇差まで帯びて、遊ぶ金の余裕と暇がある。まぁ、暇な独身中級武士(次男・三男坊)ってところだろうか。読み進むに従ってわかってこよう。

 なお「半可通」は、粋に見せようと遊里などの事情通ぶって軽蔑される者。あたしも「くずし字」初心者なのに近世文学の「半可通」。どうしようもない「生半可な隠居」です。


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