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5:「堀之内」へと女郎屋へ [甲駅新話]

koueki4_1.jpg 次は「金七 ナレドモシヤレテ金公」 もぐさ嶋(縞)、さらしのかたびら。白あさのゑりをかけたあミじゆばん。嶋ちりめんの帯を〆、かたびらの切レと見へて同じ嶋のひもを付たすげ笠に、茶がへし小紋のちりめんの羽折を一所にして手にさげ、但羽折のひもハかくれて見へづ、鼠色のたびをはき、もちろん丸こしなり。

 「もぐさ嶋=艾縞」。茶と白で織り込んだ木綿の単衣だろう。その下は夏用の袖なし半襦袢で白半襟。帯は縞縮緬。菅笠に単衣と同じ生地の紐をつけ、脱いだ茶返し小紋の羽織と一緒に手にしている。羽織も紐は隠れて見えないが、鼠色の足袋を履き、丸腰姿ということだろう。『甲驛新話』の挿絵は勝川春章による二人の姿を描いた一枚のみ。簡単に終わったので、もう少し先に進んで、二人の会話冒頭へ。

<谷粋>金公、なんときつい馬じやあねへか。<金公>いつそもう、引切(「ひつきり)がごぜんせんねへ。思へㇵ道があんまり悪く成りやせんの。<谷>商べへ屋が出来てから石をいけへこと入れたから、ちつとㇵ直つたのさ。<金>それでもふる時ㇵおへやすめへ。わたし共が方なんざあ、ふれバふるほどよく成りやす。<谷>道ㇵそつちの事たよ。志かしふれバふるほどとㇵあんまり味噌だぞ。<金>ハゝハゝ。<谷>なんと金公、どけへぞ上らふか。<金>どふも内がつまりやせん。<谷>ナゼ、よかろうぜ。<金>堀の内にこもつたともいわれやすめへ。<谷>われが所へとまつたといやれな。張御符せへ持てけへれバ、おやじㇵあやなされるはア。<谷>イイエサ、おやじよりやア おふくろがやかましくつて成りやせん。 かれこれはなしの内に、ほどなく女郎屋のまへにさしかゝる。

 「きつい」の意は諸々あるも、ここは文脈で「=はなはだしい、ひどい」だろう。「引切=ひつきり」のルビ付きだが、これは江戸弁特有の促音化。切れ目、区切り。「ひっきりなし=切れ目がない。絶え間なし」。「いけへ」の「いけ」は「いけしゃあしゃあ」の「いけ=接頭詞、侮蔑強調」と判断した。現代俗語なら「ゴッツイ」だろう。「おへやすねへ=どうしようもねぇ」。「味噌=手前味噌」。「内がつまりやせん」は、家の者が承知しないか。「商売=しょうべぇ」で、二人の会話には江戸弁(下町言葉)が多い。ここは志ん朝なんかに語ってもらいてぇとこだ。

 「堀之内」が出て来た。当時は「堀之内へ詣でる」と言って新宿の女郎屋で遊んだそうな。吉原に遊びに行くには「浅草の観音様へお詣り」が誤魔化しの常套句。あたしは堀之内・妙法寺を知らぬゆえに、いい機会なので自転車で行ってみた。機会があればこれも記す。


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