SSブログ

6:メモ「内藤新宿の歴史」 [甲駅新話]

 naitosinntizu1_1.jpgここで『甲驛新話』を中断し、内藤新宿の歴史を簡単に復習。徳川家康が江戸幕府を開き、五街道を定め、その一つが甲州街道。半蔵門から調布、八王子、甲府への道。日本橋から高井戸まで休憩所がなく、五人の浅草商人が「内藤新宿」開設を願い出た。時は江戸開府から約百年後の元禄十年(1697)。金五六〇〇両上納を約束した裏には〝大儲けの企み〟もあってのことだろう。幕府は内藤家中屋敷一部と旗本屋敷などを取り上げ、その名も「内藤新宿」を開設。

 浅草商人の代表が高松喜兵衛(後に喜八)で、上総の出身。高松家が内藤新宿の名主役を代々務め、「上総屋」は彼の経営だろう。旅籠屋は一軒に二名までの「食売女」を許可。むろん隠れて多くの遊女を抱えて大繁盛。吉原を脅かすほど乱れ、徳川吉宗の代の享保三年(1718)に廃宿。この時の旅籠屋は五十二軒だったとか。

tenryuji1_1.jpg trnryujikane.lpg_1.jpg内藤新宿が復活したのは五十数年後の明和九年(1772)。食売女は百五十人までが許可。上納の残金や冥加金も決定。同年十一月に改元で安永元年。この再開時の町方上納方を仰せつかったのが馬宿・煙草屋を営む稲毛屋金右衛門。この人が誰あろう、あの狂歌の、いや平賀源内と友人で、蝦夷まで旅した 平秩東作(へづうとうさく)。

taisouji1_1.jpg 本名、立松金右衛門。大田南畝を平賀源内に紹介してデビューさせた恩人。南畝はじめの狂歌三大家(朱楽管江、唐衣橘洲)は牛込加賀屋敷に住む内山椿軒の門下で、平秩は彼らの先輩格。平秩東作に関しては、マイカテゴリーの<大田南畝関連>ですでに紹介済。牛込・善慶寺の墓も訪ねている。彼については森銑三著作集・第一巻「平秩東作の生涯」に詳しい。

 さて、この『甲驛新話』は安永四年(1775)刊ゆえ再興三年後。本文中に普請が話題になるのもうなずける。再興時に食売女百五十人までと規制されたが、裏(実情)は容易に想像できる。加えて江戸人口の増大化、物流に欠かせぬ宿場として品川宿、千住宿、板橋宿と共に江戸四宿となって大発展した。だが元禄十五年(1702)から元治元年(1864)までの百六十二年間の火事が実に二十六件。大儲けも容易でなかったと想像できる。

ohkidoato1_1.jpgokidomon_1.jpg 次に地理の復習。内藤新宿は天龍寺から大木戸門までの間。「江戸切絵図」の「内藤新宿新屋敷之図」をアップする。「玉川上水」の右端、水番所辺りが大木戸門(現・四谷四丁目交差点)。ここから西に向かって内藤新宿下町、内藤新宿仲町、内藤新宿上町と続く。上町脇に天龍寺。今も当時の「時の鐘」が遺されている。『甲驛新話』本文冒頭で「大木戸の塵ㇵ水売の雫にしめり、天龍寺の鐘は蜩の声にひゞく」とあって、簡潔に内藤新宿の範囲が説明されている。

 下町と仲町の間に広大な境内を有する「大宗寺」がある。内藤家の菩提寺になっている。大宗寺正面が「問屋場」。ここは街道宿駅で駕籠や馬の継立てをする所。現・地下鉄「新宿御苑前」、御苑の「新宿門」辺り。また大宗寺の奥、靖国通りに面して「成覚寺」がある。ここは内藤新宿の遊女(飯盛女)の「投げ込み寺」。吉原が「閑浄寺」なら、新宿は「成覚寺」と言えよう。同寺には大田南畝らの仲間、恋川春町の墓もある。ご住職にもお話を伺ったので、別項で改めて紹介です。

 そして上町・仲町・下町の南側は広大な「内藤駿河守頼寧(信濃高遠藩)下屋敷」(現・新宿御苑)で、内藤新宿の鎮守様は現・明治通り沿いの「花園神社」。写真は上から「江戸切絵図」。次が現・明治通り沿いに建つ天龍寺の山門と時の鐘。次が大宗寺。下が新宿御苑の大木戸門。左の建物横にある「大木戸門跡」石碑。

edonaitou7_1.jpg (1)で『絵本江戸土産』の「四谷大木戸内藤新宿」(画・広重)を載せたので、ここでは長谷川雪旦・画の『江戸名所図会』をアップ。「五十にて四谷をみたり花の春」なる嵐雪句が書かれているが、時代小説家は、この絵からわかりやすくこう記している。~街道の大木戸は町の木戸とちがい、なにぶん人通りが多いので寛政四年に取り払われ、いまでは名ばかりのものとなっている。それでも街道の両脇から大人の背丈の倍ほどもある石垣が突き出して道幅をせばめ、その部分の通りは石畳となって番屋もそのままのこされ、出役(しゅつやく)のときに使う突棒や刺股や袖搦、それに松明までもが板壁にずらりと立てかけられているのが街道から格子戸ごしに見てとれ、府内に入る者へ無言の威圧感をあたえている。(喜安幸夫『大江戸番太郎事件帳(ニ)』。(以上を頭に入れて、再び『甲驛新話』に戻ります。


コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。