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「くずし字辞典」新伴侶をむかえ [くずし字入門]

kuzusijijiten_1.jpg 江戸文学、古文書を読むようになって、辞書が五冊に増えた。貧乏隠居ゆえン万円の辞書は不要で、数千円の使い勝手の良い机上版・普及版になる。最初に購ったのは柏書房『かな用例字典』(4,700円)だが、これはすぐ挫折して本棚奥で埃をかぶっていた。

 新宿歴史博物館の「古文書」講座に出席。古文書入門書を数冊購入し、併せて東京堂出版『くずし字解読辞典』(普及版)を買った。同辞典はすっかり手に馴染んだ感がある。要領も覚え、当初より相当早く該当文字に辿りつけるようになっている。

 そのうちに異体字の難儀さに柏書房『異体字解読辞典』を求めた。また古本市で東陽出版『くずし字解読字典』を見つけた。大判なので滅多にひも解かぬが、これは書道系で「草書体の書き順」付きで、筆を持ちつつ調べたりする。

 先日、古本屋で近藤出版社『漢字くずし字辞典』を購った。これは東京堂出版と同じく「児玉幸多編」だが、編集・構成がまったく違っていた。例えば「心」をひけば東京堂出版はさまざまなくずし字が七頁あちこちに散載だが、近藤出版社版は同じ頁にまとまって掲載されている。七頁を見なければならぬところ、片や一頁を見ればいい。これは便利だ。

 また東京堂出版の辞書は、実に不備が多い。例えば今は『鶉衣』を筆写・解読していて「柱」をひもとけば、こんな単語が東京堂出版は「はしら・チュウ」の音訓索引にない。ならば「木へん」で探してもない。「柱」が欠落している。辞典にあるまじき杜撰さ。一方、近藤出版社版は「はしら」でくずし方さまざま四文字が載っていた。

 次に「口紅兀(はが)さじと吸ひたる」の色っぽい文章の「兀」を調べる。「はがす・はげる」で両辞書をひくもない。「漢字辞典」で「兀=コツ、ゴツ、ゴチ」。「兀兀=ゴツゴツ」と知って、「コツ」で東京堂出版版を引くがなし。だが近藤出版社版にはちゃんと載っていた。くずし字は四パターン掲載。訓で「あしきる、あやうい」とある。「綟子張の煙草盆」の「綟=ライ・レイ・もじ」だが、これも東京堂には載っていなくて、近藤さんには載っている。あぁ、こりゃダメだ。そんな不備、杜撰、使い勝手の悪い辞典を手垢がつくほど使ってきた。

 両署共に児玉幸多編。なぜだろう。調べてみると近藤出版社の同辞典は昭和45年(1970)初版で、普及版や増補がなされるも平成3年(1991)に倒産。版元が東京堂出版に移ったらしい。「くずし字辞典」にも思わぬドラマが秘められていた。かくして今は、残念ながら書店で入手できるのは東京堂出版のみで、平成25年・新装17版が発売中。

 辞書は、確かさと使い勝手が第一。偶然ながら非常に貴重な近藤出版社版を入手したことになる。するってぇと、すっかり手に馴染んだ辞典から新辞書へ移ることになる。不備、杜撰も使い込んだ東京堂出版の辞書と去るのは、なんだか古女房と別れるような寂しさがある。一方、新たに出逢った辞書をひも解けば、その度に新鮮さ、トキメキが湧く。「新しい伴侶っていいなぁ~」と思わずつぶやいてしまう。この台詞がかかぁの耳に入ったらひと悶着必至ゆえ要注意。

 追記:しかし「くずし字」の形は無限。辞書によって蒐集に多少の違いがある。近藤さんで不満足を覚えたら、元の東京堂出版辞典をひもとくことになる。「くずし字辞典」は何冊もあった方が万全ってことだろうか。


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