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ジャポニスム20:北斎の艶本 [北斎・広重・江漢他]

hokusaiwa2_1.jpg 〝浮世絵=春画〟イメージ&概念は根強い。小生、内緒だが幾年も前の「池袋西口古本まつり」で絵師別春画(林美一&リチャード・レイン共同監修)を五冊入手。北斎は『東にしき』と『縁結出雲杉(いつも好き)』。

 さて「ジャパニスム7:林忠正とは」で木々康子著『林忠正とその時代』を紹介したが、今回は同著者の『春画と印象派』を読んだ。著者の義祖父が林忠正で〝春画流出の国賊〟を払拭すべくの著作。冒頭「はじめに」を要約する。

 ~春画を欠いて浮世絵は在り得ず、つまり春画を欠いて印象派も在り得ず。なのに〝春画〟は常に隠されてきた。欧州の巨大文化(キリスト教文化)による伝統絵画から脱皮せんと闘っていた若き印象派の芸術家らが、江戸の小市民=町絵師が描いた浮世絵の画力、また大らかな庶民の姿や春画からも、人間性回復の勇気を得たのではないか~、その推理を解き明かしたい、と記して検証・分析に入っている。

 本文紹介はブログ一回分で足らぬゆえ小生の経験を記す。「ヰタ・セクスアリス」? いやそんな秘め事ではない。東京オリンピックを二十歳で迎えた。東京がうるせぇ~ってんで、友人と東伊豆に脱出した。食堂の空き部屋で一週間ほど滞在。店主紹介の村営浴場に通った。納屋ほどの小浴場だが、なんと老若男女で賑わう混浴だった。

 なんとまぁ、大らかだったことよ。昭和四十年の東伊豆から江戸時代を想像すれば、まさに浮世絵で描かれる庶民の光景が展開と思われる。働く男らは褌姿で、夏の女性は下着なしの薄着物。古典落語では庶民長屋の壁が板一枚で、屁さえ隣に筒抜けの滑稽を語っている。弥次喜多が東海道の宿に泊れば、隣部屋の新婚を覗いて襖ごと倒れ込む。春画に襖、障子からの覗き絵が実に多い。武家屋敷裏口からは奥女中相手に〝張形売り〟の行商が出入りした。この辺は法政大総長・田中優子先生の著作に詳しい。まぁ、大らかだった。

 欧州絵画の女性像は〝女神〟限定。宗教神話中心ゆえ花鳥風月は最下位の価値領域。だが産業革命の都市荒廃で自然復興に目覚めれば浮世絵の花鳥風月、江戸庶民のイキイキとした姿があった。美術工芸品は『北斎漫画』の花鳥風月を先を争うように取り込んだ。

 著者は「ジャポニスム12」掲載の歌麿『鮑取り』同ポーズで、ミレーが裸の『鵞鳥番の少女』を描いたと指摘。またゴングール「日記」より「今朝、ロダンとブラックモンと食事。ロダンは全く獣じみた様子で、私のエロティックな日本の作品を見たいと頼んだ」。その絵の細部ひとつ一つに感嘆の声をあげた~の記述を紹介。

 浮世絵は西洋から遠近法(浮絵)を学んだが、春画の局部拡大図法に腰を抜かしたに違いない。眼を剥いたロダンのように。そうか、もっと自由に描いていいんだと。著者は「外叔父・林忠正は浮世絵の画法・画力のみならず、パリの芸術家に花鳥風月を愛でる心、人間の本質の素晴らしさを伝えたかったのではないか」と結んでいた。

 写真は北斎『東にしき』一部。「あれサ、こぞうがおきますよ。そんなにせわしなくせずとも、いいじゃねへかナ」。ちなみに、これら絵や絵本を称して和印、読み和、笑い本、笑い絵、独り笑い、あぶな絵、秘画、秘本、写し絵、鏡絵、勝絵、避火図、会本(えほん)、艶本、猥本、エロ本、好色本、色本、春本、籠底書、埒外本など。(続く)

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