方丈記1:先入観なしが肝心 [鶉衣・方丈記他]
「松岡正剛の千夜千冊」の岩波文庫『方丈記』評に、「長明は失意の人で、典型的な挫折者。内田魚庵のいう〝理想負け〟、山口昌男のいう〝負け組〟だったから」「そういう男が58歳のときに『方丈記』を綴りはじめたのだ。われわれもよほど覚悟して、その意図の表裏に惑わされずに読む必要がある」
松岡正剛の〝われわれ〟とは誰のことだろう。この記述で『方丈記』を読む気が失せたが、とりあえず岩波文庫『方丈記』(昭和64年初版で現44版)を購った。校注・市古貞次がこう記していた。「何かと思うに任せないことがあって、神社関係の交らいもしないで、自宅に籠居していたらしい。社交的ではない偏屈な性格であった」。また若くして出家した西行と比較して「30年余、神職の家に執念を持ち続け(略)いわば敗残者長明」
松岡正剛の読書評は、同書の受け売りのような気がしないでもない。次に図書館で関連数冊を借り読んだ。五味文彦『鴨長明伝』(平成25年刊)の「はじめに」を読む。
「これまでの多くの研究を見ると、いささか長明に冷たい」と記し、岩波文庫の前述文を引用し「このような評が生まれたのはどうしてか。(中略、それはどうやら)『源家長日記』の記述に起因しているらしい」。そして細野哲雄『鴨井長明の周辺・方丈記』(昭和58年刊)以後は研究も進んでいないと記していた。
ここはどうやら〝典型的な挫折者〟なる先入観なしに読むのが肝心らしい。かく心得て、僅か9千字程を一気読了を思いきや、小生は平安末期の歴史も京都にも疎い。過日はひょんなことで『保元物語』を読んだが、『平治物語』も読み、京都の地理や歴史、加えて古語、くずし字のお勉強もあって、なかなか先に進めない。
『方丈記』には古本、流布本さまざま。岩波文庫は最古本掲載だが、これは「カタカナ+漢字」表記。ゆえに校注者によって漢字表記が異なる。各校注本を読み較べれば、岩波文庫にして、例えば地震記述部分が2百字ほど抜けていたりもした。
小生は「くずし字」勉強中ゆえ、明暦4年の山岡元隣(江戸時代前期の俳人、仮名草紙作者)注の『方丈記』(国会図書館デジタルコレクション)を中心に読み、筆写もしてみようと思った。約8百年も前の人物・著作ゆえ不定かなること多々ゆえ、ここは勝手解釈の隠居遊びで参りたい。
2018-02-05 07:30
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