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加藤幸子著「鳥よ、人よ、甦れ」 [野鳥関連本]

katouyukiko2_1.jpg 一気読了の感動ドキュメント。副題は「東京港野鳥公園の誕生、そして現在」。著者は芥川賞作家(昭和58年「夢の壁」受賞)の加藤幸子氏。同書は昭和58年に「東京港野鳥公園」設立が決定した直後に書き下ろされた「わが町東京 野鳥の公園奮闘記」から一部削除・追加して開園15周年記念(設立決定から4年の工事期間を経て平成元年10月に開園。15周年は今から4年前の平成16年)に出版されたもの。あたしは先月に同園の観察小屋から極めて稀なシベリアオオハシシギを撮らせていただいたばかりで、この野鳥園誕生までの艱難辛苦の闘いに思わず胸がキュンとしてしまった。8年間に及んだ著者及び関係者の努力奮闘を想うと、今後は同園の門を一礼せずには入れなくなってしまった。

 著者はまず「大都市東京のなかの野鳥公園の根本的意味」を問い直すことから書き始めます。都市の表層を剥がせば、隠れていた原初が復活し、原風景や本来の生物が逞しく甦ってくる。従って人工系と自然系が同じ比重で混じりあうことががベストではないかと考察します。著者のこうした自然保全の考えや行動は、自身の子を含む地域の子供自然観察会から始まります。「水鳥観察会」で多摩川の合成洗剤で泡立つ光景にショックを受け、近所の荒涼とした大井埋立地で逞しく甦った野鳥たちに驚愕します。この埋立地は卸売市場の移転用地として作られるも放置された間に干潟に生物や植物、野鳥たちが復活。著者はここから「都会も自然。人工系と自然系などあらゆるものが溶け合っているのが現代のあるべき姿ではないか」と認識します。

 ここから著者と仲間たちの区、都、国を相手にした自然保全、野鳥園開設への8年に及ぶネバーギブアップの闘いが始まります。まずは3ヘクタールの「大井野鳥園」(現在の西淡水池)を得て、今度は埋立地全50ヘクタールを市場側と野鳥公園の分割をめぐる激しいせめぎあいに突入します。埒のあかぬ行政(役人)側と立ちくらみするほどの苦難を経て、ついに27ヘクタールを勝ち取るまでの詳細ドキュメント。芥川賞作家ですから鳥好きの男たち、地域のお母さん方、役人たちを描く筆は鋭くて優しくて、読む者をグイグイと引き込みます。実にいい本を読ませていただきました。(藤原書店 2200円)


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