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猪瀬直樹『ミカドの肖像』(3)プリンスとゴルフ [『ミカドの肖像』]

seibuhoukai_1.jpg 第Ⅰ部「プリンスホテルの謎」第一章は「ブランドとしての皇族」。国土計画本社の社長応接室での堤義明インタビュー場面から始まるも、肝心のインタビューは一向に始まらぬ。

 同社の軽井沢の土地取得・開発の経緯説明が延々と続く。読んでいれば、怪物的人物・堤康次郎の自伝、評伝を読みたくなる。各種事業へ挑戦も失敗続きで、大正7年、30歳で軽井沢に乗り込む。金がないのに秘策をもって土地取得から開発への展開はまさにドラマだろう。

 昭和22年、GHQにより皇族11宮家が離籍。生活成り立たぬ彼らの土地を次々に買収。朝香宮家の軽井沢別荘が皇室向け「千ヶ滝プリンスホテル」になり、目黒のアール・デコ建築の本邸が「吉田茂首相公邸」から「白金迎賓館」へ。この間に西武が買収して「白金プリンス迎賓館」。ここにホテル建設を計画するも住民反対運動。都に売却の利益をもって旧白川宮邸跡地に「高輪プリンスホテル」を建築。

 この要約は『ミカドの肖像』からではなく、共同通信社経済部編著『「西武王国」崩壊』(東洋経済新報社刊)他から。(1)で「文は人なり」と書き出したが、「書も人なり」。読書は著者が誘う次の展開へ胸おどり、併せて著者にも惹かれて行くものだが、同書にはそれがないゆえに関連書への浮気と相成り候。

tennogolf_1.jpg 朝香宮家に関する記述も然り。目下は改修工事で閉館中だが「東京都庭園美術館」サイトの「旧朝香宮家の歴史を訪ねて」が、写真多数で同家・同邸の歴史41回連載が一挙掲載されて、こっちの方が面白く楽しい。

 西武(国土)の土地買収と開発の詳細は第二章も続くが、第三章でいきなり「天皇裕仁のゴルフコース」になる。ここでやっと堤義明インタビューが始まるが短文8コメントほど。特別な内容でもなく、あのもったいぶった書き出しは何だったのか。

 昭和天皇のゴルフについても、かつて日本のゴルフ史を読み漁った身には承知のことばかり。ここでは従来のゴルフ史の間違いの数々を訂正して昨年刊の田代靖尚著『昭和天皇のゴルフ』(主婦の友社)がお勧め。

 つまり、こういうことなんだ。 『ミカドの肖像』には求心力ある芯がない、あっても芯に磁力なし。希薄、空虚ゆえに、集めた諸相などが拡散ベクトルを発して、読む者を他著へ誘うってこと。読者を引き込む力がないんだなぁ。(続く)


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