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(2)艶気と“京伝鼻” [江戸生艶気蒲焼]

kyoudenkao_1.jpgedohyousi_1.jpg 題名『江戸生艶気蒲焼(えどうまれうはきのかばやき)』は「うなぎの蒲焼」のもじり。化政期文人の先輩格・平賀源内が「土用の丑の日」に蒲焼を食うことを広めたが、京伝の源内へのリスペクトもあるやも。深読みすれば江戸前の「蒲焼」は美味も、調理前は醜い。粋と野暮を含んでいる(端からオリジナル解釈)。

 

まずは法大総長就任決定を祝して田中優子先生の『江戸の恋~「粋」と「艶気(うわき)」に生きる』(集英社新書)より「艶気」について。…江戸の恋は「好色」と言ったり「浮気=艶気」と言ったりする。それが江戸の恋の、もう一つのいいところである。浮気とはつまり、地に足がついていない、現実世界からはぐれているという意味だ。~略~。(恋が)切ないならばそれもいい。夢が覚めたらそれもまあ、しかたがない。固くてひんやりした地面も、なかなかいいもんだ。それが江戸の恋である。

…フムフム。大田南畝も酔狂から覚めれば下級武士「徒組」。京伝も「手鎖50日の刑」に処される運命にあり。浮気と現実。ゆえに「好色・浮気(艶気)=セックス・助平」ではなくて、恋心の切なさ・辛さ・厳しさを気遣い・教養・芸をもって昇華するが「江戸の“粋”な恋」だと。それらが小唄、端唄、歌舞伎、浄瑠璃、黄表紙などに昇華され、それらを愉しむ心の余裕が肝心とおっしゃっている。

次に『江戸生艶気樺焼』の主人公・艶二郎について。この解釈は京伝関連書の著者それぞれゆえに、ここは私流解釈がいいだろう。まず注目は、実際の山東京伝は江戸っ子らしい細面の鼻筋通った粋な優男容貌(1の似顔絵)で、彼は三十年余に亘って描き続けた戯作主人公の顔が上を向いた団子鼻。“京伝鼻”。ここに鍵があると推測する。

つまり作者・京伝は、戯作の主人公を“京伝鼻”にすることで「フィクション」を貫き、自身を晒さぬことを貫いた。京伝鼻=艶二郎が“野暮”の典型なら、その裏の本人は“粋”の領域に居ると読みたい。売名せず、自慢せず、騒がず。謙虚で控え目、シャイ。人生や恋の厳しさ・辛さ・哀しさも騒がず静かに心の遊びへ昇華する「粋」の心持ち。

この図式の他に「江戸っ子」図式はもう一つある。「やせ我慢」に通じる「鯔背な粋」に比して傲慢、強欲、自慢、力のひけらかし「硬派野暮」の図式もあろろう。この辺はおいおい記すことにして、いざ本文へ。

 

『江戸生艶気樺焼』は天明五年(1785)の日本橋通油町の蔦屋重三刊(板)。上・中。下巻構成で題字が楷書、行書、草書になっている。「気」は旧字「氣」で逆ガンダレの寸縮まったくずし字。「樺」は旁の「華」が「花」のくずし字。

 絵は『江戸生艶気蒲焼』の前年刊『志やれ染手拭合』に早くも登場の京伝鼻の手拭デザイン。なお“京伝鼻”については、佐藤至子著『山東京伝』が詳細考察している。
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