SSブログ

(3)仇気屋の艶二郎 [江戸生艶気蒲焼]

 uwaki1_1.jpg本文に入る。…こゝに百万両ぶげん(分限)とよはれ(呼ばれ)たる、あだきや(仇気屋)のひとりむすこをゑん(艶)二郎とて、とし(歳)もつづや(十九)はたち(二十)といふころなりしか。ひん(貧)のやまひ(病)ハく(苦)にならす、ほか(他)のやまい(病)のなかれかしといふミ(身)なれとも、しやうとく(生得)うハきなことをこのミ、しんないぶし(新内節)の正ほん()などをミて、たまきや(玉木屋)伊太八、うきよ猪の介が身のうへをうらやましくおもひ、一生のおもひでに、このやうなうきな(浮名)のたつしうち(仕打ち)もあらば、ゆくゆくハいのちもすてやうと、ばからしき事を心がけ、いのちがけのおもひ付をしける。(画の一部も模写した)

 

●「ぶげん」は分限、ぶんげん。その人の社会的身分、地位、財産等を示す語。身のほど、分際。小池正胤著『反骨者 大田南畝と山東京伝』では、この絵の右側の暖簾にオランダ商館マーク入りを指摘。仇気屋財力を物語ると記す。(左にそのマークを入れておいた)

●「あだきや」は仇気屋。古語辞典では「あだ=徒」で、浮気なさま、心変りのさま、不誠実。「徒気(あだけ)=浮気、好色」「徒徒(あだあだ)しい=誠意がない」。ならば仇より徒が良かろうや。男が「徒気(あだけ)」で、女は「婀娜(あだ)」っぽいがいい。

●「ゑん二郎とて」。「郎」のくずし字は「ら」みたいと覚える。「とて:体言に付いて、~と言って、~と思っての意」。『江戸生艶気樺焼』刊の2年後、天明七年の洒落本『通言総籬(つうげんそうまがき)』で同書の主人公らが再び登場。「艶二郎」は「艶治郎」。「あだきや」はやはり「仇気屋」になっていた。★『通言総籬』は早稲田大学図書館公開のデータベースで読める。そこに「吉原では金持ちの野暮を“艶二郎”と云うほどに『~艶気蒲焼』が流行した」との記述があるそうな(佐藤至子著)。

●「なりしか」の「しか」は「然」。そのように、さようで、このように。●「貧の病は苦にならず、ほかの病のなかれかし」は河東節一説から。●「なかれかし」の「かし」は終助詞で意味を強める語。「さぞかし」の「かし」も同じく意味を強める語。念を押す「なのだ」の意。●「しやうとく=生徳」。生まれつきもっていること。

●「うきなのたつ志うち」。今も売名にこの手を使う芸人あり。「志うち=仕打ち=他人に対する行い、振る舞い、やり方」。●「しける」は「し+ける」。

 絵には吹き出し風に「こういふミ(身)のうへニなつたらさぞおもしろかろう よい月日の下で生れたてやひ(手合い=連中)だ」。次は「新内節」について。


コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。