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(19)ぶたれて悦ぶ艶二郎 [江戸生艶気蒲焼]

nagurareru_1.jpgゑん二郎、志はゐをミて(芝居を観て)、とかくいろ男といふものㇵ、ぶたれるものとおもひ、志きりニぶたれたくなり、じまわりのきおひ(地回りの競い)を、ひとりまえへ(一人前)三両つゝにて、四五人たのミ、中の丁の人高い所にてぶたれる徒もりにて、ちやや(茶屋)の二かいニㇵ(二階には)藤兵へ(衛)をやとゐおきて、めりやすをうたわせ、ミだれたかミ(乱れた髪)をうきなにすかせるつもり(浮名に梳かせる積り)にて、さかやき(月代)へㇵせいたい(青黛)をぬり、あげやまち(揚屋町)のぎんだし(銀出し)にて、さつとミつかミ(水髪)にゆひ、たぶさをつかむと、ぢきにばらばらとほどけるよふにして、ぶたれけるが、ついぶちところわるく、かたいき(片息)ニなつて、かミ(髪)すき所でㇵなく、きつけよはりよ(気付けよ鍼よ)とさわぎて、よふよふきがつきけり。此時、よつぽどばかものだといふうきな(浮名)すこしばかりたちけり。

地回り「うぬがやふないゝ男がちらつくと、女郎衆があだついてならぬゆへ、おいらもちつとやきもちのすじ(焼餅の筋)だ」といふせりふㇵ、こつちからちうもん(注文)でいわせるなり。 地回り「きりおとしから、ばちがあたるといふばだ」 艶二郎「そのにぎりこぶしが、三分つゝについている。ちといたくてもよいから、ずいぶんミへのよいやうニたのむたのむ」

 「うぬら=己等」で「うぬ=きさま、おまえ、てめえ」。「じまわり=地廻り」は昭和世代でも通用する。「きおひ=競い」で競い肌・勇み肌の略だろう。「人高い=人が多く集まっている」(古語辞典)。「ちやや=茶屋=引手茶屋」。「藤兵衛=めりやす巧者の萩江藤兵衛」。「みだれ髪を女に梳かせ~」の文句は「めりやす+芝居」にあるそうな。 

 「せいたい=青黛」。役者が月代を青くするのに使う顔料。「揚屋町の銀出し」は妓楼・揚屋跡の町名で、ここの商屋や茶屋で売っている「銀出し=頭髪用水油」。「水髪=水でなでつけた髪」。「たぶさ=もとどり=髻」は髪を束ねたところ。「かたいき=片息=絶え絶えの苦しそうな息」。「あだついて=浮気っぽくなる、心が浮つく」。「きりおとし=切落=歌舞伎の平土間最前の大衆席」。「ばちがあたるといふばだ=二枚目を殴る役者に客席からそうヤジが飛ぶ場」。江戸言葉、吉原言葉、芝居言葉がたくさん出てきた。

 ネット調べをしていたら『江戸生艶気蒲焼』が国立劇場で平成三年に上演されていると知った。三幕五場で、主演は澤村宗十郎。荻江藤兵衛を六代目片岡十蔵が演じていた。さて、どんな舞台だったか。 


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