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8:まずは茶屋・坂見屋にあがる [甲駅新話]

koueki6_1.jpg<谷>かゝさん、どふしなすつた ~坂見屋ハ後家持の茶屋なり。谷粋ハあまり物にもならぬ客ゆへ、さのみ(それほど、さほど)とりはやし(取り囃し=にぎやかにする)もせず。たゐがい(大概=ほどほど)のあしらいに見へる~

<坂見屋の後家 カミハキラズ>これハ谷粋さん、どふなさりました。ねつから(根から=いっこうに)お見へなさりませんね。あなた、よふお出なさりました。サァおあがりなさりまし

<金>アイゆるしなせんし。谷粋さん、足をあらいてへ物だね

<後家>あい。~立(たた)んとする所を~

<谷>どれどれ、おれが ~としこなしぶり(うまくやりこなす風で、通ぶって)に、たらひを出して水をくミこむ~

<後>ちつとお待なさりまし。一寸とわかして上ませう

<金>ナアニ、水がよふごぜんす

<後>それでもおつめ(冷め)とふ御座りませふ ~といゝながら、どうこ(銅壺=へっついや長火鉢脇に作られた銅の湯沸し)のふたを取り、ゆびを入て~ 是も同じ事だ。

<谷>ナニ、よしさよしさ

<金>手ぬぐひをあげふか

<谷>ウゥ、かしなせへ。おれがのハ汗手ぬぐひで役にたゝねへ ~二人とも足をあらひあがる内に、盃だい(盃台・さかずきだい)など用意して、二人が前へ直し置(おき)、となりの女房らしきをよびよせ、ミゝへ口をあて、何やらさゝやく~

<谷>かゝさん、かめへなさんなよ

<後>アイ、けふ(今日)ハあやにく五郎をおやしきへ遣(つかわ)しました

<金>御亭主ハへ

<谷>ナニサ、まんこう御前(後家)だよ ホンニ、なぜ(旦那を)入なさらん

<後>どふも気に入た男が御座りません。ハハハハ

<坂見屋の娘もと>~外よりかけ来り~ かゝさんや、かゝさんや

<後>ナンダ お客があるぞ。おじぎをしろ

<谷>むすめ、どうした。大きく成たの

<後>イイエ、もふどうも形(なり)ばつかりて、いたづらにはこまります

<もと>~谷粋が持来りし風車を見付て~ かゝさん、あれがほしい

<後>ナニサ、あれはおみやげになさるのだ

<金>~風車を取て~ 此事か

<谷>サア、やろおう、やろう

<後>ナニおよしなさりまし。直に悪くいたします

<谷>悪くしてもよしさ、サァサァ

 

 内藤新宿の旅籠屋と茶屋の関係が描かれていて興味深い。また旅籠屋とは言え「見立て」(張見世に座る女郎を、客が見定めて相手を決める)のシステムを有していて、まぁ「旅籠屋=妓楼」と言ってもいいだろうか。「まんこう御前」に興味の方は、ご自分でネット検索をどうぞ。「風車」は、堀之内(妙法寺)土産。新宿で遊ぶのを「堀之内詣り」を言い訳にしたらしく、その証拠にと土産の風車をわざわざ買ってきている。懐にはきっと張御符も入っていよう。

絵は『甲驛新話』の続編として4年後刊の、山手馬鹿人(大田南畝)作の『粋町甲閨(すいちょうこうけい)』の勝川春章の絵の一部を模写アレンジした。 

なお会話文ながら原文は棒組表記で読み下し難いので、前回より現・会話文の体裁(会話毎に行替え)にしてみた。しかしこの体裁は、当ブログでは不可能(改行すると一行アキになる)なので、ワードで打ち込んだ文を、ブログへ「コピー・ペースト」。だがブログとワードの相性が悪いのだろう、時に行替えなどが乱れたり、思うようにならぬが多々。だましだましでやってみる。


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