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10:女郎の手紙は茶屋が配達 [甲駅新話]

koeki10_1.jpg<谷>まだ早かろうの

<後>アイ、暮てからが、よふ御座ります

<谷>モウ床(床屋)ハ仕廻(しまつ)たかの

<後>もふ仕廻(しまひ)ましたろう

<金>ナアニ、まだ結(いひ)なさらずと、よふごぜんすぜへ

<谷>見ともなくはねへか

<後>ナニサ、きんきんで御座ります。又たとへお髪(ぐし)ハ悪しともさ、~と谷粋を尻目二かけて、あやなす~ (きんきん=当時の流行語で、立派の意と校注あり。すると恋川春町『金々先生栄花夢』は〝立派な先生〟なる意と理解できる。これは「古語辞典」になし。「江戸の流行語辞典」なんてのがあるかしら)

<谷>又、かゝさん、上手も久しい(近世語=きまり文句だ。珍しくもない)ものさ。道理で、とつさんが若死だ。~いろいろむだをはなして居る内に~

<坂見屋ノ若イ者五郎八>~屋敷よりかへり~ 是ハどなたもよふお出なせんした

<金>あい

<谷>どふだ色男、久しいの、橋本己来だろう

<五郎>ホンニ、何と思召(おぼしめし=「思う」の尊敬語)てお出なせんした。花あふぎ(扇)へばかりお出なんすね

<谷>~花おふぎへいつた事ハなけれども、金公への見へに、どふいつた事のあるよふな皃(かお)をして~ 嘘ばつかり

<五郎>ナニサ、ぞんじておりやす

<谷>ヘエ、悪い所を見られた

<後>ひもじかろう。マア、めしをくわつせへ

<五郎>イイエ、おやしきで給(「たまわる」だが、ルビは「たべ」)てめへりやした

<後>ドウダ、よこしたか(五郎はお屋敷に売掛金集金に行った。それがもらえたか)

<五郎>アイ、三分(校注に約15千円とあり)取てめへりやした。跡ハぬしが明後日持て来なさる筈でごぜんす

<後>久しい物さ(珍しくないことさ)。ソシテ、何ハ、文どもハミんな届ひたか(女郎が客に出す文は、茶屋が届けて返事を貰ってくるのが普通、と校注にあり)

<五郎>アイ、ミんな御返事を持てめへりやした。縁志さんハお留守でごぜんす

<後>外のハゑへが、亀本から二三度返事を聞に来たから、ちつと休んだら一寸と出して来さつせへ

<五郎>アレハ、どれだつけね

<後>ソレ、丸の内(校注:江戸城の内郭)のさ

<五郎>ヘエ、平(ひら)さんかへ。又無心だろう

<後>油ハ買て来さしたつか

<五郎>アイ、かうじ町(麹町)の仲蔵でかひやした。サア

<後>アイ、よしよし

<もと>なんだ。見せな

<後>ばかめ、油だハ喰ふ物じやァねへ

<もと>かゝさん、ねん寝志よふ

<谷>もふ寝るのか。床いそぎ(子供に遊郭言葉を使っている)だの

<金>サア、構ハずと寝せな・寝せな

<後>ハイ、左様なら(そうならば)、おゆるしなさりまし ~まくらかやを出し、娘をねせ付る 志ばらく有て~ <後>御ろうじまし(御覧じまし:「御覧ず」の音変化。「見る」の尊敬語、見て下さい)。モウ、ふせりました。

<谷>おとなしいねへ

<後>あがき草臥て、夜ハよふふせります ~日もくれ、あんどうともす~

<谷>モウいかふかの

<金>あい

<後>五郎どん、つけて下せへ

 

模写は(8)と同じく、山手馬鹿人『粋町甲閨』の勝川春章の挿絵一部より。坂見屋の若い者・五郎八のつもりで模写した。


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