見立てた遊女とまずは~(13) [甲駅新話]
<谷>アノ、藤色との
<後>今、かんざしでつむり(頭)を掻て居なさるのかへ
<谷>イイニヤサ。こつちから三番目のさ
<後>アイ、そしてへ
<谷>アノ、団(うちわ)を持て居るあさぎだ
<後>アイ、是、半兵へどん。三沢さんと綱木さんだよ
<半>ハイ、よふ御座ります。サァ、お上りなさりまし
~と、先へ立(たつ)て二かゐ(階)へ。<谷・金>もつづゐて、<後>てうちんけし(提灯消し)同じくあがる~
<半>~表ざしきのせうし(障子)をあけ、あんどうもとぼし(行灯も灯し)~
さあ、是へおはゐりなさりまし。子供、お茶を持て来いよ
~といひながら、いそがしそふに下りて行~
<金>良へ内だね
<後>去年の夏か、普請をいたしました
<谷>普請の内ㇵとなりに居たつけの
<後>アイ、左様で御座ります
<子供はるの> ~茶を三ツぼん(盆)にのせて持来り~ あい、お茶ァ、おあんなんし
<後>置ていきや。ドウタ、眠そふな皃(原文で白に脚がハ)だの
<はるの>寝ておりゐした
<谷>押付(おっつけ)見せへ出よふが、そのよふに眠がつちやァ客衆がいやがるぜへ
<はる>知つたかへ
<後>ホンニ、あなたへ水あげをお頼申しや
<はる>おがミゐす(拝みます=冗談は勘弁して)。おめへまで、おんなじよふになぶんなんす。にくいぞ(からかってなさって憎いぞ)
<半>~女郎のたばこぼん、きやくたばこぼん(客煙草盆)も持来る~ 又、何をさわぐ
<谷>イイニヤサ、ミづあげの約束よ
<半>ナニサ、水あげハ、わたくしがとふにいたして置ました
<はる>又、半兵へどん、よさつせへ。すかねへぞよ ~と半兵へがせなか(背中)をたゝゐてにげる~
<半>逃たとつて、にがす物か ~とつづゐて下へ行~
<金>女郎の名ハ、どうどうだつけの
<後>藤色が綱木さん、あさぎが三沢さんで御座ります
<谷>ぬしの注文の二人ハ、あの内じやァねへか
<後>アイ、三沢さんハわたくしの申たので御座ります
<谷>金公、きまりだぜへ
<金>なんなら取替やせうか
<谷>ゆふもんのふんどしだぞ(憂悶の褌?語呂合わせで龍紋・竜紋=絹の平織物で帯、袴、羽織などに用いる~のふんどし?よくわかりません)
<半>~てうし(銚子)、硯ぶた持出、あんどうのおき所を直し、ろうかへむかひ~ さあ、お出なせんし
<綱木・二沢> ~二人来り、口を揃へ~ どなたも、よふお出なんし
<三>おかさん、どふしなんした
<後>はゐ
<綱>ナゼ、おもとさんを連て来なんせん
<後>モウ、ふせりました
模写絵は、芝全交作・北尾重政画『遊妓寔玉角文字(ぢょろうのまことたまごのかくもぢ)』(女郎の誠心、玉子の角文字)より。勝手に着色。同書は漢文(角文字)で儒教本を装って「女郎の誠心」を「遊妓寔」と書き、「女郎の誠と玉子の四角(この世にない)、あれば晦日に月が出る」なる唄に合わせた戯れ本。北尾重政は京伝(北尾政演)の師。芝全作は京伝と同時代の黄表紙作家。
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