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江戸弁、廓言葉、ギャグの戯れ(16) [甲駅新話]

koeki14_1.jpg<後>その代(かわり)に、モウ、漸(よふよふ。古語辞典:やうやう=次第に、かろうじて、やっと)かへりまして、あすの朝迄、何もしらずに一ト寝入(ひとねいり)にふせりましたから、ほうぼうのお客さん方に叱れました。夫(それ)にあくる日ハ一日頭痛がいたしますね。大きなめ(ひどい目)に合ました。覚てお出なせんし(「し=しゃい」の軽い命令語か)

<綱>ホンニ、あの時ハわつち(廓言葉:わたくし)もいつそ(廓言葉:とても)酔いしたよ

<三>そんなら、ちつと(少し)つ(注)ぎんしようから、出しなんし(廓言葉)

<綱>是ハ憚でござります オトオト、ハイ、谷粋さんおゝさへを給(たべ)ます(谷粋さんが押えた分をいただきます)

<谷>どうだ、丁どあるかね。味方見ぐるしい酌だぞ(味方同士の遠慮した酌だぞ)

<三>ナニサ、一盃(いっぱい)つ(注)ぎんした

<後>アイ、左様なら

<谷>もう一ッかの

<後>とんだ事をおつしやるぞ

<金>お前にやア、わつちが酌をしやせう

<谷>こつちハこつちどうしだの

<三>ひゐきをしなんすと聞いせんよ

<谷>チット、ありあり(有難う有難う)

<後>お肴をあげませう、何がお望へ

<谷>なんでもよしさ

<後>そんなら是をあがつて御ろうじまし。イッソ、よふござります

<谷>例のびわか。びわ突出しのその日よりだ

 

「突出し」は新造が初めて客を取り、一本立ちするお披露目の儀式。廓の中を歩く「道中突出し」は七日間行われ、費用は旦那持ちで二百~五百両とか。簡単に行うのが「見世張突出し」。この辺は廓事情をしらぬゆえ詳細わからず。まぁ、そんな言葉に「びわ突き出し」と言ったか。以下、延々と当時の言葉遊びが続く。

 

<金>ひよりひより、ひより(ひとり)二人三人

<谷>(「さんにん」に絡んで)むにんだノ。むにん・むにんと。むにん夏の虫とんで火に入

<金>にいる・にいる・にいる。にいるのつらへ水さ、ハハハ・ハハハ

<綱>とんだえへね

<谷>ナント、えへ口だろう。半口乗って無尽を買なせへう

<網>無尽とハ何の事かぞんじいせん

<谷>なむさん(失敗した時に言う〝しまった〟)、雪のあくる日だ

<綱>それも知りいせん

<谷>てれた(照る、てれる)といふ事さ、サァ、金洲さそう

<金>こりやア、ちつと上(あげ)やせう

<谷>夫がいやたから、ぬしにさしたのだァな。そんなら一寸とお頼申やす

<三>おあゐ(御間=盃のやりとりで、間に誰かが入ったりすること)かへ。お手元(酌の手を止める)ともうしんせうか

<谷>そりやァむごい、マアマア

<三>そんならおあかさん、つゐでおくんなし。アイ、おぜんす(盃が一杯になったでございます)

<谷>モシエ、あゐハ手本とやら。わたしも灰吹にのませ(呑むふりをして煙草盆に捨てる)やすぜへ

<三>ナニサ、ミんな給んした

<谷>何かハしらず、ありがてへ。かゝさん、おれにもつでくんな

<後>サァ、お出しなさりまし

<谷>オット、よし。さあ金公

<金>かゝさん、はばかりながら、アイト

<谷>金公ハどふぃもらぢ(埒やァあかねへ

<三>ナゼ、呑なんせんかへ

<後>アイ、ねつから上りません

 

 江戸言葉、廓言葉、語呂合わせ、親爺ギャグで盛り上がる盃事の戯れ会話。まぁ、ここは感じがわかれば、それで良し。先にすすみましょう。
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