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田舎客の骨を抜く女郎(26) [甲駅新話]

koeki21_1.jpg<孫>去年の正ぐわち(正月=しょうがつ、しょうがち、しやうぐわち)、御年頭に出府のヲして(領主の江戸屋敷に新年の挨拶をして)、けゑりがけにふと晩とまつてから、たげへに根性ぼね(骨)のヲぶちまけるよふに成るたアも(心底割って惚れあった)、前世のゑんにんぞく(因縁ずく?)だんべへよ

<折>なんでも、わつちやア、ぬしの所へいきゐすによ(どんなことがあっても、私はあなたといっしょになりますよ)、又いなかで性悪をしなんすなよ

<孫>でへせんもん(大誓文=起請文)、お身さまに(そなた、あなた様に)あにを(豈=決して)見けへべへ(見返ない、裏切らないの意だろう)

<折>なんぼ、ぬしがそふいひなんしても、先から(先方の女から)しかけられなんしたら、只ハ置なんすめへ

<孫>それに付(つい)て咄(はな)しがあるよ、去々年(おつとし)うらが国の生土(おぶすな=産土=うぶすな。土地の神様、氏神様、鎮守様、産土様)の祭りが有て、かぶきのヲした時に、うらも役者に成(なつ)てな、かやの勘平(忠臣蔵の早野勘平)のヲしたら、あにがはあ、江戸役者のよふだあとつて、ぢよなめいた(なまめかしい雰囲気)アほどに、隣村の庄屋アどんのおまんじよう(嬢=娘の名の下に付ける敬意語。名・おまん+嬢)が、がら(まったく)うつ(まるまる)ぼれて(惚れて)んの、おめへまいらせそるべく候(女性の手紙の決まり文句)の、惚証文(ほれぜうもん=恋文)のよこしたア事よ。それからあ、おき名(浮名)が立て、村中取ておつけへしたアよ

<折>それ見なんし

<孫>イゝニヤサ、それもはあ、今じやア、おつぱなれたア(離れた)から、あぜ、りん(悋)気する事ハおざんねへ

<折>ほんにかへ、真実わつちをかわいゝと思ひなんすなら、さつきの事を忘れなんすなへ

<孫>アニ、わすれべへ。かたびらふたあつ(帷子=単衣物)とふとへ物(?)だの、モウ、あに(何)もいらねへか

<折>どふも、そんなに、ぬしに斗(ばかり)ハ、いひにくふおぜんす

<孫>アゼ、そんなにきやく心(隔心)だア、あんでもいひなさろ

<折>そんならいひすよ、アノンネ、小遣にしいすからね

<孫>金か

<折>あい

<孫>いくらべへ入(いる)な

<折>弐両ばかりおくんなんし

<孫>あしたやるべへよ

<折>遅くつてもよふおぜんす、いつそわつちやア、気の毒でおぜんすけれども、外(ほか)に客衆がおぜんせんから

<孫>アニサ、お身さまがいふ事ハはあ、おでへかんさま(お代官様)のお触だア、とおもふもの

<折>ほんにかへ、いつそ嬉しうおぜんすよ

<孫>嬉しかア、こつちへ寄なさろ

<折>待(まち)なんし、ゆかたが引かゝつていひす

 

 「じょなめく」をはじめに方言っぽい語が多いが、広辞苑や古語辞典をひけば、意外や意外ちゃんと載っている言葉が多かった。文字筆写は「くずし字辞典」で、新字体に直してからは「広辞苑」「古語辞典」。辞書ひき遊びでも御座います。

物語は隣座敷でも〝濡れ場〟へ。金公の相方・三沢も手水から帰って来て〝濡れ場〟でしょう。あちこちの座敷でウハウハ。そこで模写絵は故意かうっかりで〝濡れ場〟を見て、アンレマァと驚いている男衆。参考にしたのは歌麿の〝和印〟から。物語は二階の谷粋と綱子のカップルへ移ります。


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