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嫌な客には「あしか」になる(28) [甲駅新話]

koeki22_1.jpg二階座敷 <谷>是これ、ちつと起ねへ

<綱>ウゝゝ

<谷>是さ、用があらアな、目をさましなせへ、コウコウ

<綱>おがミいす、寝かしておくんなんし

<谷>マア、ちよつとこつちよヲむきなせへよ

<綱>エゝモウ、うるせへ。よしなんしよ

<谷>エゝ、何だ、此ふんばり(下等遊女を卑しめていう語)やア。ゑへかとおもやあがつて、あめへことば(甘い言葉)を懸りやア、つきあがりのしたびろうどべりのぼんござに寝ると思て、めつたに大きな面アしやアがる。なんぼ高くとまつても、たかゞ飯もりだ。此よふな貧乏屋てへ(屋台)でやすくされるよふなやろうじやアねへよ。惣(そう)てへいめへましい(すべていまいましい)、~と、たばこぼんをほうり出す。火ハなし(ト書きですね)~

<綱>~おき上り~ もしへ、何のこつでおぜんす。おつせんす(おっしゃりたい=廓言葉だろう)事があるなら、しづかにおつせんしたがよふおぜんす。新ぞう衆(若い遊女)じやアおぜんすめへし、怖がりもしゐすめへ

<谷>くそをくらやアがれ。しずかにいおふが高くいおふが、おれが銭でおれが買た座敷で、おれが口でおれがいふに、何の頓着(とんちゃく、とんじゃく=深く心に掛けること、気づかい)が有もんだ。それが悪かア、いわれねへよふにしやあがつたがゑへハ

<綱>わつちも、勤る所ハつとめて置ゐした。(イタすことはイタしたって意だろう)

<谷>何だ、勤た。あんまり虫がゑへ。百合若大臣(舞曲、浄瑠璃、歌舞伎の復讐物の主人公で、闘った後に三日三晩眠りこけたとか)の娘だかしらねへが、あしかから五節句を取るほどふさり(伏さる、臥さる=寝る)やあがつて、人聞(きとぎき)のゑへ。第一、うぬが名からして気にいらねへ。蕎麦切へ入る饂飩の粉(つなぎ)じやアあるめへし、つなぎだのなんだのと、おしのつゑへ(押しが強い=我が強い、ずうずうしい)。つなぎよりやア、
つばき(唾液)をなめてゑへ風だ。

 

全編会話構成で、場面説明(ト書き)を小文字で記入。『甲驛新話』はそのまま脚本として使えそう。 「おぜんす=おぜえす=〝ある〟の丁寧語。ございます、ござんす、あります」廓言葉。「つきあがりしたびろうどべりのぼんござに寝ると思て」は、「付き上がり」は丁半博打の張札。ビロウド縁の盆御座に寝ると思って、大きなツラをしやぁがる、と言っている。 「あしか」はよく寝るの代表的存在。五節句=七草、桃、菖蒲、七夕(笹)、菊の各節句にだけ起きるとか。その五節句もないほど寝ていると怒っている。綱木は酒事の会話から、ボソッと「嫌なヤツだ」とつぶやいていたから、寝りこけるのは確信犯だとわかる。

芝全交作・北尾重政画『遊技寔卵角文字』に、それにピタリの絵があったので模写した。ご丁寧にも絵の横に「よくねるあしかのよふだ」と書かれていた。当時の流行り言葉でもあったのだろう。
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