SSブログ

「おっせんす」と「ごぜんす」(29) [甲駅新話]

koeki23_1.jpg~<金・三>も来て~

<金>谷粋さん、こりやアどふでごぜんす

<谷>まあ聞てくんねへ。宵から今までふさり(臥さる=うつむく。ふす。ねる。江戸語)やあがつて、ちつと起したとつて、そつちこつち(其方此方=そちこち=あれこれ)いやあがるから、あんまりいめへましい(ネット調べをしたら甲州弁辞典で=くやしい。谷粋は甲州出身か)

<金>それでも、おめへでもごぜんすめへ(校注:通人のお前ににあわないだろう。この「ごぜんす」については後述)。しづかにおつせんしな。

<三>アイサ、お腹のたつ事がおぜんしても、志づかにおつせんすりやアようおぜんす。

<谷>なんだな、おめへ方まであじに並びを付て(校注:いっしょになってだが、「あじ」は手際よく、こざかしく、調子に乗っての広辞苑にあり)おればつかりつき出す(広辞苑:遊女に始めて客を取らせる、が出てくるが、校注:悪者にする。)のか

<金>どふしておめへを突出もんでごぜんす

<綱>ナニサ、おかめへなんすな、わたしもそうおふにハつとめ(相応には務めた=裏意ではイタした)いした

<谷>又口を出しやアがる

<三>綱木さん、おめへハ、マア、あつちへいきなんし

<綱>アイ、そんならゑへよふにお頼もふしんす ~と立ってとなりのざしきへはいり~ 哥松さん、おやかましうおぜんせう~

<哥松>アイ、なんだなむづかしねへ

<綱>ナニサ、もふいつそすきいせんよ

<哥>たばこを呑なんせんか

<綱>まあ、往て来いせう

<三>成ほど、お腹の立事もごぜんせうけれども、どふぞきげんを直しておくんなんし、わつちがどのよふにもあやまりいせう

<谷>そりやアもふ、思しめしおかたじけなふごぜんすが、あんまり安くするからのこつてごぜんす。そしてマア、おめへの前じやアいひにくうごぜんすが、こゝれへ来てあつかわれた(ここ新宿に来て安っぽく扱われちゃ)といつちやア、どふもげへぶん(外聞)が悪ふごぜんす。大きな声をしていふがミめ(見目=面目)でもねへけれども、あんまりでごぜんさあナ

<三>ほんに綱木さんも悪ふおぜんすが、あの子も若ふおぜんすから、気が付なんせん、そしてぬしも ~金公が事~ きげんよく居なんす事でおぜんから、ちつとハ御ふ肖(不肖=父に似ないおろかなこと、とるにたらないの意だが、校注=胸に収めて。校注の判断元を知りたいものです)もなんして、マア、お休みなんしよ

<谷>ナニサ、今からけへろうの何のと、おやしき物かなんぞのよふに、いやミからミをいふのじやアごぜんせん

<三>そりやアもふ、何おめへを悪く思ひす物でおぜんす。堪忍せへしておくんなんせバ、何も申事ハおぜんせん

<金>モウ、夜があけるそふだ。阪見屋も来やせふからきげんを直しなせんし

<谷>ナニサ、きげんを直すの直さねふのと、寝起のやゝさまじやアあるめへし

<三>コレサ、そんな事をおつせんしちやアふしが立て(角が立つ)悪ふおぜんす、なんでもわつちにおくんなんし

<五郎八>~ろうかより~ はい、お迎でござり、あす

<三>五郎どんか、とんだ早いね。サア、這入てたばこを呑なんし

 

 ここでは遊里語の「おつせんす」と「ごぜんす」について記す。「おっせんす=おっしゃります。(言う)の尊敬語と辞書にあり。 「ごぜんす」は辞書になく、こう判断した。「御ぜんす=おぜんす=おぜえす」。こう変化すると考えれば「おぜんす」は辞書にある。「おぜんす=おぜえす=「ある」の丁寧語でござります。あります」。「ございます、ござんす」に当たるが、それより敬意の度は低い。「ございます」のありんす言葉は「ござりんす」。文脈から「ある」と判断したが、これで正しいとした。

 江戸言葉については、以前調べたことがあって数冊の辞典が本棚にあり、子供時分を思い出すべく志ん朝落語口演本も読みこんだ。一方、遊里(廓)言葉は広辞苑に載っている言葉もあれば、載っていない言葉も多い。校注者はどんな資料でどう判断したのだろうか。

中野栄三著『江戸秘語事典』は6081円。真下三郎著『遊里語の研究』は古本で2700円(定価は1万円位か)、『江戸語大辞典』は古本で6042円。『江戸語辞典』は定価で20520円。隠居遊びゆえ、そこまではいらんように思うが、まぁ、古本市で安く出廻っていたら購いましょう。
コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。