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最後は「跋=あとがき」(31) [甲駅新話]

koeki25_1.jpg粋(すい)とハ梅干、野父(やぼ)とハ鶏の名かときくやうや、新宿田舎にあやめ咲とはしほらしと、ぞめきの声、有頂天にひゞき、ヤツサコラサの息杖(いきつえ)坤軸(こんぢく)にこたへて、茶屋ハどんどん(人が入る)、拍子木かちかち。草鞋うる老父(ぢゞ)もいきはり(意気張)を覚へ、団子商ふ賤女(かゝ)もよしなんしとはねかけ、桑田変じて海道の繁昌を、唯一冊に書しるせしもの、二日酔のちらちら目に見れハ甲驛新話とあり。嗚呼、吾党いき(粋)ちよんの君子をして、これ(内藤新宿)にあそばしめば、即(すなハち)、其尻つまらざるにとかゝらん。随行散人随帰(ずいと行く、ずいと帰る散人)の枕上に跋(ばつ)す。安永乙末秋(安永四年) 新甲館蔵書

 「跋:ばつ=あとがき」。「粋とハ梅干」は、酸い(粋)も甘いもの酸い=梅干の洒落。「野父とハ鶏」はヤボとチャボの語呂合わせで鶏。そんな答えが返ってくるような田舎の新宿で、あやまが咲くとはかわいらしい、と言っている。

 「ぞめき=騒」。ぞめくこと、浮かれ騒ぐこと、冷やかしの客。「息杖」は駕籠かきや重い荷を担ぐ人がひと休みする時に、物を支えたりする杖。あたしは若い時分に山男だったので、荷上げの歩荷(ボッカ)さんが、背負子の後ろに支え棒をついてひと休みする姿を見た記憶がある。

 「坤軸」は広辞苑に、大地の中心を貫き支えていると想像される軸、地軸とあり。「よしなんしとはねかけ」は廓言葉で、客の戯れ言葉に〝よしなんし〟と返している光景。「尻つまらざるにちかゝらん」は尻が詰まらん=おもしろくて止まらない。

 以上で『甲驛新話』完。最後に内藤新宿の投げ込み寺・成覚寺を訪ねたく思います。


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