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方丈記21:方丈暮らしの充実 [鶉衣・方丈記他]

matafumoto2_1.jpg 日野山、方丈庵生活の充実記が続きます。

 又麓に一の柴の庵あり。則(すなわち)此山守が居るところ也。かしこに小童有。時々来て相訪ふ。もしつれづれなる時は、これを友としてあそびありく(遊び歩く)。かれは十六歳、われは六十。其齢事の外なれど、心をなぐさむる事は、これ同じ。或はつ花を抜き、岩なしを取る。又ぬかごをもり、芹をつむ。或はすそはの田井に至りて、落穂をひろひて、ほぐみ(穂組)をつくる。若日うららかなれば、嶺によぢ上りて遥に故郷の空を望み、木幡山、伏見の里、鳥羽、羽束師(これも地名)を見る。勝地は主なければ、心をなぐさむる障なし。あゆみ煩なく、志とをくいたる時は、これより峯つゞき、すみ山を越、笠取を過て、石間にまうで、石山をおがむ。若は又栗津の原を分て、蝉丸翁が跡をとふらひ、田上川をわたりて、猿丸太夫が墓をたづぬ、帰るさには、折につけつゝ、桜をかり、紅葉をもとめ、蕨を折、木のみをひろひて、且は仏に奉り、且は家づと(みやげ)にす。

 岩波文庫版では「かれは十歳、これは六十」。江戸本は「かれは十六歳、われは六十」。どちらが正しいのでしょうか。長明のアウトドア暮しが、実に楽しそうです。ここからは植物のお勉強。

 ●つ花=茅花、イネ科の多年草。細い鞘に花穂を包む。この花穂が茅花。初夏にこの鞘をほどき銀色の穂がなびく。茅花の中の穂は僅かな甘みがあって、子らが食べる。●岩梨=ツツジ科。果実は緑色=赤褐色の果皮に包まれて、梨のような甘さがある。●ぬかご=むかご、自然薯の茎にできる実。

 草摘みを愉しめば、嶺に登って故郷を望み、かつ先輩歌人らの足跡に思いを馳せる。●すそはの田井=山裾をめぐる田。●勝地=景勝地。●すみ山=宇治市炭山。他に地名いろいろ。●石山=岩間寺。●蝉丸翁=琴をよくした翁。●猿丸太夫田風=三十六歌仙の一人。

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