方丈記22:草庵の夜しづかなれば [鶉衣・方丈記他]
もし、夜しづかなれば、窓の月に古(故)人をしのび、猿の声に袖をうるほす。草むらの蛍は、とをく真木の嶋のかがり火にまがひ、暁の雨は、をのづから木の葉吹嵐に似たり。山鳥のほろほろと鳴を聞て、父か母かとうたがひ、峯のかぜぎの近くなれたるにつけても、世にとをさかる程をしる。或は埋火(うづみび)をかきをこして、老のね覚(寝覚)の友とす。おそろしき山ならねど、ふくろうの声をあはれむにつけても、山中の景気、折につけても尽ることなし。いはんや、ふかくおもひ、深くしれ覧(らん)人の為には、これにしてもかぎるべからず。
「窓の月に故人をしのび、猿の声に袖をうるほす」は『和漢朗詠集』から。窓からの光に旧友や故人をしのば、猿の声が彼らの泣き声にも思えて涙があふれる~そんな意だろう。
●真木の嶋=槙島(宇治川と巨椋池の間にあった洲。かがり火をたいて氷魚をとる)。●かせぎ=鹿の古名。●かきおこして=掻き熾す? ●景気=気配、景色(けいしょく、けしき、風景)。
最後の「いはんや、ふかくおもひ、深くしれ覧人の為には、これにしてもかぎるばからず」の現代文訳は「いうまでもなく、深く考え、知識深き人には、これだけに限らないはずである」
2018-04-29 13:08
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