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ジャポニスム14:荷風「泰西人の北斎」 [北斎・広重・江漢他]

kafuedo1_1.jpg 今回は永井荷風『江戸芸術論』の「泰西人の見たる葛飾北斎」を読む。荷風はまず日本人による優れた北斎評がないのを歎く。

 「泰西人の北斎に関する著述にして余の知れるものに仏国の文豪ゴンクウルの『北斎伝』。ルヴォンの『北斎研究』あり。独逸人ペルヂンスキイの『北斎』。英吉利人ホルムス『北斎』の著あり。仏蘭西にて夙(つと)に日本美術の大著を出版したるルイ・ゴンスはけだし泰西における北斎称賛中の第一人者なり。ゴンスは北斎を以て日本画中の最大なるものとするのみに非ず、恐らく欧州美術史の最大名家の列に加ふべきものとなし~」

 まぁ、日本人の情けないことよ。日本では1893年(明治二十六年)の書肆・逢枢閣を営む浮世絵商・小林文七から出版の飯島虚心『葛飾北斎伝』くらいか。だが同書を読めば経歴・逸話を集めた書で、北斎絵画評ではなし。同書は鈴木重三校注で岩波文庫刊。原文はARC古典籍ポータルデータベースで読める。

 ★追記:荷風さんが同著執筆は大正二年(1913)、没年は昭和三十四年(1959)。日本の美術関係者が「ジャポニスム」に注目して執筆開始は昭和五十五年(1980)前後から。日本の画家はじめ美術関係者の眼と頭は相当に惚けていたと言っても過言ではなさそうです。

 さて、荷風さん改めて「そもそも何が故に斯くの如く(北斎が)尊崇せられたるや」と分析・考察。北斎称賛要素に「堅実な写生力」と「画題範囲の浩瀚無辺」を挙げた。

 まず写生について。日本画古来の伝統法式ではなく、その円熟の写生が泰西美術の傾向と相似たる所で、その写生力が泰西鑑賞家らにとって「初めて日本画家中最も己に近きものあるを発見し驚愕歓喜のあまり推賞して世界一の名家となせしに外ならざるなり」

hokusaiden1_1.jpg その写生力は観察力の凄さ。印象派と同じく性格の表現に重きを置かんとして、人物禽獣は飛躍せんばかり。彼は浮世絵、琳派、狩野の古法、支那画、司馬江漢に西洋画を学んだが〝写生の精神〟は始終変わらず。老いてなお、観察はさらに鋭敏にその意気いよいよ旺盛。この点において北斎は寔に泰西人の激賞するが如く不覊自由(ふきじゆう)なる独立の画家たりといふべし。

 次に画題範囲の浩瀚無辺について。筆勢の赴く処、縦横無尽に花鳥、山水、人物、神仙、婦女、あらゆる画題を描き尽せしもの古来その例なし「一驚せざるを得ざるべし」と記す。

 さらにその制作は肉筆、板刻の錦絵、摺物、小説類の挿絵、絵本、扇面、短冊、図案等各種に渉りてその数夥しい。そのなかで泰西人称美の第一は『北斎漫画』などの絵本、第二は『富嶽三十六景』『諸国瀧巡り』『諸国名橋奇覧』等の錦絵。第三は肉筆掛物中の鯉魚幽霊または山水。第四は摺物なり。長くなったので区切る。写真は岩波文庫『江戸芸術論』(全集では第十四巻収録)と飯島虚心『葛飾北斎伝』。(続く)

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