SSブログ

源内も震えた奇談かわら版 [くずし字入門]

uma1_1.jpg 池袋西口の古本まつりで、平凡社の太陽コレクション『かわら版』(昭和53年刊)を入手。江戸・明治の多種「かわら版」を「読みくだし付」で紹介。「珍談奇談の流行」の項に「百姓の女房、馬の子を産む」を筆写してみた。

 

 「くずし字」初心者でもスラスラと読めるレベル。筆写も一発書き。まずは「このたび所ハ山城の国嵯峨大徳寺前」。「大徳寺」は金閣寺近くの実在の名刹。実と虚の入り混じり奇談なり。「百姓左次右衛門女房之おいね、としは二十五才なり」。「左=さ」で「右=読まず」で「さじえもん」。「衛」は「エ」で省略。左と右を含む立派なお名前。

 

 「此百姓左次右衛門のうちに、あし毛のむまを常々からかいおき申ところ、うちの女房おいねつねづねから、いたつてきりやううつくしき女なりしが、毎日毎日この馬にかいばをあたゑけるが」。「むま」は馬。

 

 「このむま、のちにハ、此女房おいねのかをかたち、こゝろばゑ、きりようのうつくしき事に見い入れられ、有る日、馬にかいばやるときに、むま、家ゑおいねをひきこみ、むまがすぐにこう加ういたして」。まぁ、むまが女房にぞっこん惚れて、遂に「こう加う=交合」致して…とある。

 

なんと獣姦奇談ではないか。北斎に「蛸と海女」の絵あり。ギリシャ神話では王妃と牛の交合でミノタウロスが誕生した。さて続き…「その月この女についニむまの子をはらミて、今月二日に馬のかをのつきたるあか子をうみし事、ま事(誠)にめづらしき事どもなり」。挿絵は豊満な乳房の女房と、馬の顔で身体は人間の赤子の絵。まさにギリシャ神話のミノタウロス。ご丁寧にも、赤子の陰茎の巨大なことよ。

 このかわら版は江戸後期。かわら版作者は、ギリシャ神話のミノタウロスを知っていたのだろうか。平賀源内も男根のような棒を叩きつつの浅草の人気講釈師・志道軒をモデルに、スィフト『ガリバー旅行記』に匹敵の物語『風流志道軒傳』を書いた。かわら版作者も女房と子の、その後の波乱万丈物語を記せば、後世に名を遺せたかもしれないと思った。いや源内の才気ゆえの無残な死を思えば、無名のままが良かったような。


コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。