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鶉衣17:煙草説‐神龍の働き [鶉衣・方丈記他]

tabako3_1.jpgそも(いかにも、本当に)煙草の徳も、むかしより人かぞへ古(ふる)して、今さらいふもくどければ、かの愛蓮(中国栄代の周さんが〝蓮は花の君子〟と言った愛蓮説)にならひて此類の品定せむに、酒は富貴なる者なり、茶は隠逸なる者なり、たばこはさしづめ君子の番にあたりて、用る時は一座に雲を起し、しりぞく時は袖のうちに隠る。こゝに神龍の働きありといふべし(いやはや、えらく煙草を持ち上げたものだ)。

下戸と妖物(ばけもの)は世にすたれて、下戸は猶少からず、今や稀なるたばこぎらひにして、野にも吸ひ山にも吸へば、たばこ入の風流、日々にさかんで、きせるの物ずきとしどし(年々)にあたらしくて、若輩の目を迷はせども、楠が金剛山の壁書をみて思ふに(楠正成が壁に武具の使い方を書いたそうで、それに習って~)、たばこははさがね(乾燥しない)を専とし、きせるはよく通り、灰吹はころばぬを最上とこそ。さらば色みえでうつろふ花の人心にも(移ろいやすい人の心だが)、畢竟(結局)そのものゝ本情・実情をうしなはざれとなり。

 あたしの子供時分には「羅宇(らう、らお)屋」が蒸気装置を組み込んだリヤカーを「ピー」という音を発しつつ曳いて来た。祖母は死ぬまで煙管党だった。刻み煙草は「ききょう」。亡くなった後も、家には祖母の煙管があって、いつかそっと自分の抽斗に仕舞い込んだ。はて、何処へ行ってしまったか。「羅宇屋」を知っている最後の世代だろう。

kiseru1_1.jpg 絵は浮世絵に描かれた煙草盆。竹の円筒状が「灰吹(はいふき)」。吸い終わったら灰吹にポンッと叩き捨てるか、プッと吹いて落とす。丸い容器は「火入」だろう。火種が入っている。これらをセットした煙草盆は手提げ型、桶型、箪笥型、さらには蒔絵が施されたものと様々。横井也有はここまで煙草を愛したが82歳の長寿だった。肺がん、禁煙が騒がれたのは平成10年以降じゃないだろうか。


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