日本語(1)濁点なし文章 [くずし字入門]
例えば折々にひも解く『江戸名所図会』(絵:長谷川雪旦/文:斉藤月岑)は写真上の通り、漢字にルビ付きで「濁点なし」。一方のほぼ同時期『絵本江戸土産』(西村重長版も広重版も)、写真中の通りルビ付きで「濁点あり」。
もう少し調べてみましょう。芭蕉『おくのほそ道』の場合はどうか。岩波文庫の校注本は「読解上の便を考えて、内容に従った区切りを設け、適宜句読点、濁点、カギ等を施した」で、ここは原本(素竜清書本)を読んでみます。写真下の4行目中ほどから読みます。
「又いつかハと心ほそしむつましきかきりハ宵より津とひて舟にのりて送る千住といふ所にて船をあかれは前途三千里のおもひ胸にふさかりて幻の巷に離別の泪をそゝく」。
芭蕉も「濁点なし」です。「津とひて=集いて」は「万葉仮名(津=つ)+濁点なし(と=ど)+旧仮名(ひ=い)の構成。古典は概ね〝施された〟文章で接することが多いも、やはり原本には特別の味わい深さがあります。
十辺舎一九『東海道中膝栗毛』はどうでしょうか。校注者は「清濁は、同じ語でも表記が違い、濁点を欠くもの甚だ多い。(中略)当時の発音にできるだけ従って補い正した」。濁音付き校注だと説明。
時代を遡って明治22年(1889)公布の「大日本帝国憲法」を見ます。第1章天皇第3条「天皇ハ神ニシテ侵スヘカラス」。漢字+カタカナ+ルビなし+濁点なしです。表記・黙読は〝ヘカラス〟で、音読ならば〝べからず〟と読むのだろう。
下世話な小生は、ここで遊んでみたくなった。「本々尓多ん古ん不知古ん天」。北斎ならば即答してくれる。「開(ぼぼ)に男根ぶち込んで」。かく下世話で無教養でお馬鹿な小生にも、そんな濁点についてを、わかり易く教えてくれる本があるだろうか。ネット調べをすれば「そんなこたぁ作者が好んで濁点有無を選んで書いていることゆえ、読む側は文脈の流れから勝手に読めばいいんだよ」とあった。やはり図書館へ行って調べてみよう。(続く)★カットは全て国会図書館デジタルコレクションより。
2019-06-18 08:04
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