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永井荷風『来訪者』二青年その後(1) [永井荷風関連]

 越前堀(霊岸島)調べで、永井荷風『来訪者』再読。同作登場の二青年その後がかなり「注目」ゆえに以下をメモる。『来訪者』は昭和19年2月起稿で同年4月脱稿。昭和21年9月に表題『来訪者』で筑摩書房刊。その内容は・・・

 荷風さん60歳(昭和13年)の時に、34、5歳の二青年がよく訪ねて来た。下谷育ちで漢文雑著に精通の「木場」と、箱崎の商家生まれで英文小説を読む「白井」。荷風は二人に未発表原稿を渡したり、蔵書目録を依頼したりしたが、やがて音沙汰がなくなった。そんな或る日、30年も前に書いた自筆本が偽本として出てきた。彼らの仕業らしい。荷風は白井が蛇屋育ちの未亡人・常子と越前堀に隠れ暮していることを突き止めて訪ねて行く。

hiraiteiiti_1.jpg さて、この二青年のその後。草森紳一『荷風と永代橋』の最後は、こんな記述で終わっている。 ・・・『来訪者』は荷風を裏切った「白井」(平井程一、呈一)、「木場」(猪場毅)をモデルにした小説である。偽作事件で文壇入りの機を失った白井は、女とお岩稲荷の近くの越前堀に住んでいる。(略)。老いて衰えし荷風が「浅草がよい」に妄執する昭和三十三年あたりから、荷風の死んだ翌年にかけて『世界恐怖小説全集』なる異色の翻訳シリーズが東京創元社からつぎつぎに刊行される。世界の「闇」の夜明けである。レ・ファニュの『吸血鬼カーミラ』、ブラックウッドの『幽霊島』、アーサー・マッケンの『怪奇クラブ』等々。そのほとんどが平井程一(呈一)の手になるものばかり。片っ端からわくわくしながら読んだのが忘れられない。その翻訳文には、彼の作家魂がこもっていた。

 これら恐怖・怪奇小説集は多くの青年作家らに影響を与えたらしい。また「小泉八雲作品集12巻」も彼の手によるものらしい。日本文学研究資料叢書「永井荷風」に文学教授蓮執筆のなか、早稲田大学中退の肩書で平井呈一の骨のある格調ある「永井荷風論」が載っていた。

 この二青年は佐藤春夫も絡んでいる。佐藤春夫『小説永井荷風』にこうある。・・・わたくしが偏奇館の木戸ご免になったのをみて、わたくしを通じて偏奇館に近づき、先生を利用しようとする者が書肆や個人でも尠くなかった。白井(平井)も木場(猪場)もひと頃わたくしのところに出入りした文学青年(荷風は佐藤春夫門人と書いている)で、白井は編輯していた「日本橋」という雑誌の原稿を得たいからとわたくしに荷風先生への紹介状を求めた。(続く)


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