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永井荷風『来訪者』二青年その後(2) [永井荷風関連]

haruokafu_1.jpg 前回の続き。佐藤春夫『小説永井荷風』より、例の二青年記述の続きをひく。

 ・・・先生の諒解を得てから連れて行こうと思っているうちに、白井は勝手に先生に電話をして、これからカッフェーでお目にかかると言ってきた。(略)。先生は白井が気に入って、そのうち白井は木場貞(猪場)という相棒まで偏奇館へ引っぱり込んだ。二狡児は原稿の整理を名目に荷風の原稿を多く借り出し、また日乗の副本を作って置こうなどと荷風の手蹟を多く見てその筆蹟を学び、果は共謀して先生の偽筆を多く作って諸方に売り出した。

 驚くべき記述は続く。・・・(荷風が)いつぞや気紛れで書いた『四畳半襖の下張』という春本まがいの戯文の出版を企てているものがいるというのである。(略)。・・・日乗の間に挿み込んで置いたあの原稿は、荷風の推測どおり木場(猪場)が白井(平井)に教えずこっそり入手。木場はそのころ『一葉全集』の編集もしてい、一葉の偽書をもたくさん作って売っていた。(木場が作って売ろうとした)『四畳半・・・』は偽筆と見破られて、(今度は)秘密出版社に売り渡すことにした。

 また『濹東奇譚』には私家版「京屋本」と幻の「大洋本」もあるらしいことは多くの荷風関連書が書いている。その「大洋本」も実は木場(猪場)の仕業らしいのだ。

 加藤郁乎『俳人荷風』の<第二章『濹東奇譚』をめぐりて>は、俳句よりこの辺の書誌が主テーマ。『濹東奇譚』の私家本「京屋本」と「大洋本」には荷風撮影の玉ノ井写真と俳句が掲載されていて、両本ではそれが微妙に違っていると解説し「京屋本」の句を解説。私家本にお目にかかれぬ身には、なんとも苛立たしいことよ。

 この辺の加藤翁の記述は小門勝二『荷風本秘話』の引用ゆえ、同書を読みたく思えば、なんとラッキー、10月1日からの「穴八幡・早稲田古本市」で同書を入手。さらにラッキーは続き、「大洋本」の俳句を紹介・解説の伊庭心猿(猪場毅、木場貞)の<『濹東奇譚』 副題~荷風翁の発句>が青空文庫(著作権切れをネット公開)でヒットしたじゃないか。さっそくプリントアウトし、句に添えられた写真も諸書より幾点かを除いてほぼ推測。愉しみは続く・・・。


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