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野坂昭如 『赫奕たる逆行』 [読書・言葉備忘録]

misimahon_1.jpg 猪瀬直樹『ペルソナ』の次は、野坂昭如の『赫奕たる逆行~私説・三島由紀夫』(文藝春秋、昭和62年刊)。「三島の少年時代とは似ても似つかぬ」ながら、共通項を挙げて自身を見つめ直している。

 ゆえに三島の文学、憂国への言及はなし。野坂の実父購入の家が新宿愛住町で、三島の生まれは四谷区永住町(現・四谷4丁目)で150mの至近。ともに終戦年に妹を亡くした。野坂の実父に愛人がいて、彼を産んだ母は数ヶ月で亡くなった。実母の妹が嫁ぐ「張満谷」家の養子へ。養父も養子だが「張満谷」の祖は、三島祖父の生家・兵庫県古川市と同じ。これまた6キロと至近。三島が徴兵試験を受けた本籍地でもあり。

 三島の祖父・父は官僚で、野坂の実父も官僚で新潟県副知事。三島家は三代ともに夫婦仲芳しくなく、野坂の実父、養父も同じようなもの。男は道楽者で、女は耐えた後に羽根を伸ばす。三島は祖母「なつ」のお婆さん子。野坂も養祖母「こと」のお婆さん子。祖母ともに同い年で、母・養母も同い年。

 野坂は21歳で雑誌社に履歴書を用意するも長蛇の列で、電柱のチラシのバーテン見習いで入った店が同性愛の溜まり場で、三島が客で来て、彼の煙草にマッチの火を差し出した。33歳の『エロ事師』を三島が評価し、英訳海外出版にも尽力したが、野坂が三島に語れるのはマスターベーションや春本のレベルで、三島は「ハハハッ」と高笑いするのみで、会話成り立たず。

 三島と自身の先祖調べがスリリングな展開だが、幕末・明治・大正・昭和へと辿れば誰の家にも成功した男、放蕩で財産を食い潰した男、奔放な女もいて、それぞれの家族歴史あり。三島・野坂に絡もうと思えば、永住町と愛住町は大木戸北側で、あたしは幼児の頃に新宿御苑の池に落ち、泣きつつ向かったのが大木戸の親戚の家で、あたしの父も母も養子で祖母の姉妹がそこに住んでいた~、と「似ても似つかぬ」共通項に絡んで行くこともできる。さらに云えば、女房の若い頃の友達がピアノ教師で野坂家に教えに行っていてと、絡むネタは他にもある。まぁ、そんな気持ちにさせる書だった。

 野坂は「中年御三家」「酔狂連」「焼跡闇市派」など徒党を組むのが好きだったが、今は病気療養中らしい。先日「中年御三家」の小沢昭一が亡くなった。あたしの年代は焼跡派でも団塊世代でも安保世代でもビートルズ世代でもなく、徒党を組むこともできぬ。


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