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へっつい考6:馬琴と炭 [暮らしの手帖]

bakinsiseki1_1.jpg 塩原太助の炭屋独立から約150年後の江戸「炭」事情を、『曲亭馬琴日記』(中央公論社2009年刊)から伺う。四巻までが文政九年十一年から嘉永二年五月までの日記で、第五巻が詳細索引。一巻より炭の記述をひく。

 

<文政十年六月十九日> 堅炭の粉多く有之候二付、お百、炭団製之、数十出来。…馬琴の妻・お百が炭粉が多くあったので炭団を作ったとある。北斎漫画に「炭団づくり」の絵あり。そこからお百の姿も浮んでくる。

 

 <文政十年八月廿五日> 杉浦老母申越候は、会所に炭置候由。即刻、日傭を雇、取ニ遣シ候所、最早売切候由にて、空手ニて帰り来、日傭賃少々遣之。…炭などの必需品は炭問屋だけではなく、町会所も関わっていたことがわかる。

 

 <文政十年十二月十五日> 過日、伊兵衛、寒中為見舞罷越候節(かんちゅうのためみまいまかりこしそうろうせつ)、炭之事約束被遊候ニ付(すみのことやくそくあそばされそうろうにつき)、当九日、本湊丁(町)松本三郎治、炭一駄八俵来ル。右代金弐両四匁弐分八厘、今日、取ニ来ル。御払被遣候(おはらいつかわされそうろう)。尤、松本三郎治請取書、笹屋より持参、取置。

 

bakinniki2_1.jpg 「一駄」とは馬一頭に積める荷物の分量。八俵とは左右に三俵づつ背に二俵か。いや馬が荷車を牽いてきたか。料金は二両四匁弐分八厘。さぁ、金勘定に疎い頭ゆえどうしよう。江戸時代後期は1両=約5万円=銀150匁=銭10貫文。二両四匁=3004匁+二分八厘。細かい処は省略で現代物価で約10万円、1俵=12500円か。

 

 ちなみに裏長屋の一ヶ月店賃(家賃)が五百文(約12500円)から八百文(約20000円)。庶民の1日の稼ぎは居職350文、出職410文。1日の稼ぎは現代物価で約10000円。ここから炭1俵は出職1日の稼ぎと判断していいか。 また年末には「歳暮為祝儀、桜炭弐俵」とか「歳暮炭代として金壱朱被遣之」等のやり取りもあり。江戸時代の燃料で安かった順は<炭団→薪→炭>だろうか。

 

炭は冬の季語。枝炭、消炭、助炭、炭売、炭頭、炭竈、炭俵、炭斗(すみとり)、炭焼、花炭、炭火、石炭、当り炭、起炭、駱駝炭、炭荷、固炭、獣炭、白炭、炭手前、飾炭、管炭、輪炭、胴炭、点炭…。円朝「塩原多助一代記」に炭言葉を羅列の面白い「序詞」がある。

 

好きな炭の句を幾つかあげる。一茶「炭もはや俵の底ぞ三ケの月」。島田青峰「眼伏せて炭ついでゐる無言かな」。蕪村「炭うりに鏡見せたる女かな」。日野草城「見てをれば心たのしき炭火かな」。加藤重吾「炭売のをのがつまこそ黒からめ」。次は「薪」について(続く)


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