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慾より身命。養生術を学べ(8) [貝原益軒「養生訓」]

newyojo2_1.jpg如此ならむ事をねがハゞ、先(まず)古の道をかう(ん)がへ、養生の術をまなんで、よくわが身をたもつべし。是人生第一の大事なり。人身ハ至りて貴とくおもくして、天下四海にもかへがたき物にあらずや。然るにこれを養なふ術をしらず、慾を恣にして、身を亡ぼし命をうしなふ事、愚なる至り也、身命と私慾との軽重をよくおもんばかりて、日々に一日を慎しみ、私慾の危をおそるゝ事、深き渕にのそむが如く。薄き氷をふむが如くならバ、命ながくして、つひに殃なかるべし。豈楽まざるべけんや。命みじかければ、天下四海の富を得ても益なし。財の山を前につんでも用なし。然れば道にしたがひ身をたもちて、長命なるほど大なる福なし。故に寿(いのちなが)きハ、尚書に五福の第一とす。是万福の根本なり。

<爺婆談義> 婆:「五福」とは何ぞや。爺:長命、財力、無病息災、徳を好む、天命を全う。婆:ははっ、おまいさんは「財力なし・徳なし」だ。庶民ゆえ、せいぜいが寺小屋で、儒学を学ぶ教育環境もなかった。爺:てやんでぇ、夏目漱石だって14歳で漢学塾・二松学舎で『孟子』『論語』をさらって漢詩が得意も、やれ「文明開化」ってんで、漢詩より英語習得にロンドンへ旅立ってノイローゼになっちまった。荷風さんだって、小石川竹早町の師範附属小高等科に進学した10歳から、学校帰りに儒学者某の許に立ち寄って『大学』『中庸』をあげて漢詩も書いたが~。婆:結局はフランスに憧れちゃった。「古き道」を歩むのも簡単なこと事ではなかった。

<私注> 「尚書=書経の古名」。「長命なるほど大なる福なし=長命にならねば大なる福はない」「な〝らむ〟=~なのだろう、~であるのだろう」。「ざるべけんや=~しないでいられようか」。「殃(わざわい)」。「豈=あに」(打消し表現を伴って)決して。(下に反語表現を導いて)どうして。くずし字では「哉・楽・處・貴・軽・薄」を暗記カードに記した。

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